576話 分岐点 02
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「───つまり、アレか。
今、『空前のダークエルフ・ブームが来ている』、と」
噛み締めた甘じょっぱい《エルフ団子》を、ホウジ茶で飲み下し。
俺は、あくまで冷静に確認した。
「そう!そうなんですよ、アルヴァレストさん!
いやぁ、流石だ!
話が早い!」
テーブルの真向かいで、嬉しそうに手を叩く青年。
その顔はエルフ団子と同様、丸々と腫れ上がり、唇の端も切れてはいるが。
勢いというか情熱なら、この場に居る誰よりも持ち合わせているらしい。
「しかしだな。
人間達の文化に《ダークエルフ》が初登場したのは、結構前だよな?
どうしてまた、今頃になって?」
「あー。あの当時はオレも、”何言ってんの?”ってカンジだったんですけどね。
そこにいきなり・・・ほら。
昨年末にバズりまくった、日本のコスプレ大会の」
「おっと───そうか、《あのダークエルフ》か」
「ええ!そこからもう、オレらの世代に火が付いちゃって!」
世界規模で随分と出回った、あの画像。
どう見たって、知り合いの娘さんなんだけどな。
現在、地獄に留学中の。
そりゃあ本物のエルフがコスプレしたら、リアリティも出まくるだろうよ。
「・・・なあ、アル坊。
こやつの言ってる事は、さっぱり分からん。
その『こすぷれ』とやらは、祭りの日だけにやるものだろう?
どうしてわざわざこんな夜中に、イカレた格好で集合する必要があるのだ?」
うむ。
その疑問は、もっともだろう族長。
呼び出された俺としても、かなり驚いたぞ。
だがな。
「コスプレからヒントは得たが、『コスプレで終わらせるつもりはない』。
そういう事だろう、ええと───サリウフォルト?」
「はいっ!」
満面の笑みを浮かべる青年。
「同族以外からそう呼ばれるのは、初めてだ!
嬉しいもんですね、これは!」
「・・・ふん。両親から貰った名を、粗末にしおってからに」
「まあまあ、そう言わず。
ここは落ち着こうぜ、な?」
苛々と肩を揺する族長を宥め、ホウジ茶をもう一口。
ふむ。
団子もいいが、テリヤキチキンにも合いそうだな、これ。
『日本繋がり』だけに。
「オレ達、『言語』は大体のところ完成させてまして。
今は、ダークエルフの独自文化、諺や娯楽を作成してるんですよ」
「へえ。こだわってるな」
「『そういう遊び』は、寝る時に頭の中でやればよかろう!」
「遊びじゃなくて!本気でやってるんですよ、オレらは!」
「その分、タチが悪いわ!
迷惑にも程があるぞ、コルツェン!」
「サリウフォルトだ、って言ってんでしょうが!
ほんっと、話を聞かない爺様だな!!」
うーむ。
なんだかなぁ。
こういう『ヤング』対『オールド』という構図を見ているとさ。
どうも昔の自分を思い出しちまうな。
俺も若い頃は───いや、今もまだ若いが。
ほんの少し、アダルトな風格が身に付いたくらいだが!




