573話 Special Worker 06
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「『当たり』だ、マクシー!
ここだよ、この部屋!
遮光カーテンだったのが、そうじゃないやつに替わってる!」
筆頭が指で示したのは、2階真ん中らへんの場所。
確かに、カーテンの質感が他と違う。
古い写真のほうでは遮光カーテンだったのが、しれっと変更されていた。
「つまり、ここへ移動したのね」
「そうなるな。でも、どうしてだろう?
換気扇くらい、我慢したらいいのにさ」
「最上階の角部屋は、《優良物件》と評されるもの。
そういう私の認識は、間違っていないと思うのだけれど」
おいらも『うんうん』と頷き、頭首に強く同意。
そして、更に続けられる言葉。
「安全性の観点から、《現頭首》が角部屋を使う事は避けるのが通例。
なら、それ以外の・・・頭首筋の一員か、相当に信用のある古参。
そういった者が、元々は使っていた筈だわ」
「なのに部屋を移った、のか」
「そういう『偉いガニア』でさえ、明け渡してしまうような部屋ですよ。
空いたからって、誰も替わりに入らないでしょう」
「あー、それで『空き部屋』ってことか。
でもさ、マクシー。
そこで誰かが生活してなくても、何かの目的で使われてるんだとしたらさ。
それは『空き部屋』って表現、妥当じゃなくない?」
「えーー、その。
だからこれも、勝手な想像しまくりの《勘》でしかないんですけど。
部屋を出ていった一番の理由は。
おいら、『窓を開けられなくなったから』じゃないかなー、って」
「・・・うん?『窓』??」
「はい。
そんな状況だからこそ、次の入居希望者も居ない。
やっぱり、後から入った誰かが『自分の為』に換気扇を付けたというのはね。
不自然な気がします。
そうではない、絶対の必要性があって換気扇が設置されたと思うんです」
「・・・・・・」
「換気扇の、主な使用目的。
たとえば、『熱』かしら」
黙ってしまった筆頭に代わり、頭首様が仰る。
「PC筐体だと、ほぼそれです」
「他には・・・『臭気』というのもあり得るわね」
「待て待て、それだけじゃないぞ。
排気と言うからには、対象は気体だろ?
『毒性がある』。
『揮発性で、比重が軽い』とか」
「それらのどれか、もしくは複合かもしれませんね。
とにかく、大体にして排気というのは、《高い場所から出す》が基本です」
「「・・・・・・」」
2名分の視線が、おいらに突き刺さった。
ひぃ。
だから───勘なんだってば!
「住んでいた部屋の中で、そういうことが突然に起こるのはおかしい。
生ゴミを溜め込んで異臭騒ぎになった、とかでもなきゃ。
それなら。
換気扇を付けるべき理由は、《この部屋じゃない場所》で発生した」
「『地下室』ね」
「『地下室』か」
「おいらも、そう思います。
重要で、本家以外で取り扱うにはセキュリティ的にも問題がある『何か』。
それを、地下室で執り行っているとか」
「「・・・・・・」」
「そこからの排気を、壁の中に伝わせた配管で例の部屋の位置まで持って来た。
つまり、あの換気扇は『部屋の内部』とは全く繋がっていない。
純粋に地下の分を排出する為の穴で、とにかく外へ出せれば、それでいい。
だから、目立つような大型じゃなく、小型の換気扇にした。
《排出物の正体が分かっている者》は。
窓を開けて、それを吸い込みたくなかった。
きっと地下で事前に、フィルターとか通してはいるんでしょうけど。
吸血鬼にとってさえ『それ』は、好ましい気体じゃなかった」
「研究開発・・・それとも製造の段階に入っているのかしら」
「何を企んでるんだ、ガニアの奴等」
頭首達の表情に、緊張が走ったけど。
その答えにまでは、おいらも至ることが出来ない。
「好ましくないのは、あくまで《副次的な課程産物》で。
連中が目的とするもの自体と同じ成分とは、限りませんよ?」
一応、そこは付け加えておく。
あと、場が盛り上がってるところ、申し訳ないけれど。
おいらがこれまで言ったこと全部、《ただの考え過ぎ》かもだからね?
それっぽい筋書きに纏まった、というだけで。
案外さぁ。
地下室で連日、壊滅的に料理の苦手な『誰か』が、パンケーキを焦がしてて。
そういう事かもしれないからね!?
「それにしても・・・凄いなぁ、マクシーは!」
「えっ??」
「素晴らしい論理思考ね。
聞き惚れてしまったわ。
ズィーエルハイトに貴方が居てくれて、本当に良かった」
「ファリアの言う通りさ。
どっちみち、この画像の他には証拠なんて無いんだ。
それでもここまで考察出来たのは、お前のおかげだぞ?
お世辞抜きで、今すぐ僕ん所で働いてほしいレベルだよ」
「そ、それほどのものじゃあ」
ズィーエルハイトのTOPツーに揃って褒められたら、照れるよ。
照れるってば!
けど、嬉しいなぁ。
おいらも、ちゃんとした仕事が出来たのかな?
勿論、『PCとかのチェック』だって、正式な仕事だけども。
こういう重要っぽい話し合いに参加するとか、カッコイイし。
不謹慎だろうけど、結構ワクワクしたんだよね。
───その後、場所を頭首の執務室に移して。
───《お茶会》のご相伴にも与って。
ここぞとばかりに『購入希望の製品』を言ってみたら、通っちゃったし!
筆頭のPCに聞かされた訴えを代弁したのは、《御褒美》が確定してからだよ。
勿論、ファッションセンスに関係しない部分だけに留めて。
そりゃあ、おいらにだってさ。
立場ってものがあるからね。
『世界最弱の吸血鬼』として!
───と、ここで終われば、帰るつもりだったんだけど。
まあね。
簡単に『めでたし、めでたし』とならないのが、ズィーエルハイトなわけで。




