572話 Special Worker 05
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「ガニア家に工事業者が出入りした、っていう情報があってね」
トラックパッドに指を滑らせ、タップする筆頭。
「放っておくべきものじゃないと判断したから、『深堀り』することにした。
・・・そんで、これが本家の写真なんだけども」
画面に映ったのは、豪勢なお屋敷の画像。
2枚、横並びで表示だ。
「こんなものが、よく手に入ったわね」
頭首が呟く、端的な感想。
その言葉の後に、詮索や追求が続くことはなかったけど。
おいおい。
これ、某有名アプリのMAPでも、『偽装形態』しか見えないのに。
《黒輪商家》から買い上げたな?
あそこと付き合うのは止したほうがいい、って忠告しただろ。
───筆頭が一瞬だけこちらを見て、笑った。
”心配は分かるが、大丈夫さ”
”使い方も使いどころも、心得てるよ”
なんて感じの事を伝えたいらしい。
だーかーらー。
”そう思わせるのが連中の《手口》だ”って言ったでしょ、前に。
そりゃあ、そのあたりの決定も含めて筆頭の役目ではあるけども・・・。
「左が一年前で、右が『ごく最近』のだよ。
こいつを見て、何か気付く事は?」
「『換気扇』」
「『換気扇』ですよね」
筆頭の問いに、頭首とおいらが即答。
2枚の画像は、同じ角度から屋敷を撮影したもの。
時期が違う為、周囲の木立とかの景観は異なるけど、それは無視するとして。
《間違い探し》という事ならすぐに目につくのが、3階部分の端。
その壁に取り付けられた、換気扇だ。
「問題は、この部屋に何を作らせたか、なんだけどさ」
「・・・・・・」
画面を見つめ、考え込む頭首様。
勿論、おいらにも《何を作ったのか》なんて分からない。
分からないけど。
《違和感》があるなぁ。
「───ちょっといいですか、筆頭」
「ん、何?」
「おいら、頭が『PC脳』だから。
そういう視点で見て、考えた事でも構いませんか?」
「いいよ、いいよ。どんどん発言してくれ、マクシー」
「じゃあ、遠慮無く。
ええと。
おいら、この換気扇、小さ過ぎると思うんですけど」
「『小さい』?」
「そうです。
わざわざ換気扇を設けて、排気───まあ、吸気という線もありますが。
現段階では無難に、排気と仮定しまして。
せっかく作った割りには、どうも小さいような」
「小さいと、そんなにおかしいのかい?」
「おかしい、と思っちゃいますね、おいらは。
建物はデスクトップPCと違って、各所が仕切られてます。
そこを加味すれば、換気扇が小さくても問題は発生し難いでしょうけど。
それにしたって、小さいです。
《換気効率》的に言うとですね。
小型のFanを高速回転させるのと、大型のFanを低速で回すのは同じ結果です。
ただし。
後者のほうが圧倒的に静かなんですよ。
工事業者だって、それを提案すると思うんです」
「・・・でもガニアは、小さな換気扇を作らせた」
「筆頭、換気扇が取り付けられた部屋、拡大で見てみました?」
「ああ、勿論さ。
最近はAIの力で、くっきり鮮明に拡大出来るからね。
でも、特に気になるものは見つからなかったよ?」
”何でも最新技術を使えばいい、ではない”
”ハードもソフトも、使う者次第”
PCからまた、呆れたような抗議が。
そうだね。
まったくもって、その通りなんだよね・・・。
「『AI補正』を切って、もう一度拡大してもらえませんか。
5倍くらいで」
「まあ、いいけど」
やや不満げな声と共に、新旧どちらもの画像が『大写し』で表示されて。
真っ先に気付いたのは、それを操作した筆頭自身だった。
「・・・あれ??
このカーテン、おかしいぞ?
単純に引き伸ばしたから、ザラザラだけど。
それでも何か、こう・・・質感が違うような・・・」
「言われてみると、そんな気がしますね」
「私にも、違う物に見えるわ」
すぐさま見抜いたのは流石、筆頭というか。
服飾系の会社を立ち上げてるだけ、あるよなぁ。
指摘されなきゃ見過ごしてしまう、ごくごく小さな差異だよ。
「色はどちらも赤だけれど、生地が異なるのかしら。
クライス。貴方はこの違いを、何だと思う?」
「ん〜〜。
これだけで断言は出来ないけど、遮光カーテンと普通のカーテンの差かな?
新しいほうの写真が、遮光」
「『遮光ではなかったものが、遮光に変更された』のね」
「筆頭、他のカーテンも見てみましょう」
おいらの呼び掛けで、隣の部屋、更にその隣も比較してみる。
───その結果。
───どちらの部屋も《遮光カーテン》だった。
「つまり、あれかな。
件の部屋に何かを作ったせいで、換気扇が必要になり。
更には、外部の光を入れると不都合が生じるから、遮光にした?」
「私としては、因果関係の部分が些か雑に思えるのだけれど」
「えー?どうしてさ?
ここまでは確定で良くない?」
「そうだとしても、《足場》としてはまだ頼りないわね。
結果が同じでも理由が違えば、意味合いが異なってくるでしょうし。
何かを作った後で変更するというのは、『見通しの甘さを認める』事よ?
部屋の改装にあたり、ガニアはそれなりの設計時間と資金を掛けた筈。
明確な目的を持ち、失敗とならぬように注意を払って。
その上で、『こうなった』。
光を入れたくないなら窓を潰してもいいのに、『しなかった』。
この現状が望んだ《完成形》であるなら。
『換気扇を大型化しなかった』事にも、ちゃんとした理由が必要よ」
「換気扇の大きさは、偶然かもしれないじゃん。
外からの見栄えを優先したとか、そういうのもありそうだし」
「・・・あの、ええと」
「どうした、マクシー」
「その・・・これは、勘みたいなやつなんですけど。
おいら。
その部屋には多分、『何もない』と思うんです」
「「え?」」
「誰も居ない、入っても来ない、『空き部屋』じゃないかと」
「「空き部屋??」」
2名分の確認が重なって、部屋に響いた。
あーー。
そんな驚いたり、《衝撃的な解明》とか期待されても困る。
ホントにただの勘だから、これ。
だけど、何でも意見を言っていい、と許可されてるし。
どんな事にも全力で当たるのが、ズィーエルハイトだし。
おいらだって、そうしなきゃ恥ずかしいよね?
確証を得るより先に、リアルタイムで思考を伝達しちゃっていいよね?
「遮光カーテンはおそらく、ガニア本家のデフォルトの物品で。
一年前、その部屋にいた者には、それが好ましくなかった。
もう少し外の光を透過させたいから、色だけ同じの違うカーテンに変更した。
でも。
ある日突然、その部屋に『換気扇を付けなきゃいけなくなって』。
その事に耐えられず、『部屋を替わった』。
───そういう可能性も、あると思うんです」
「「!!」」




