570話 Special Worker 03
ルーター。
分配器。
LANケーブル。
無線接続時の、認証管理ハードウェア。
一通り確認して回ってるけども。
こういうのは本来、遠隔からのチェックでも事足りる。
それをわざわざ『定期メンテナンス』の体で出張ってきた理由。
そこには、おいらの《特殊な能力》が関係してる。
これ本当、吸血鬼としてのメリットは、これっぽっちも無いんだけどさ。
おいら、デスクトップだろうとノートだろうと。
それがPCであるなら、見ただけで『状況』が分かっちゃうんだよね。
大切にされてるのかなんて、一発だよ。
事前に埃だけ払ったり軽く拭いたりじゃ、誤魔化されない。
使用者が普段、そのPCに対してどう接しているのかが完全に分かってしまう。
だってさ。
そういうのは全部、『PCが話して』『教えてくれる』からね。
彼等の健康状態まで。
いやー。
どうしてそんなのが知覚出来るのかは、謎だけどもね。
そういうもんなのさ。
別に誰かが信じなくても、ただの勘とか運だろ、って言われても。
けど実際、おいらはPCと話せる。
おまけに、とてつもなく相性が良い。
とにかくPC、もしくはその関連部品ならバッチリだ。
初期不良なんて絶対に引き当てないし、ちょっとやそっとじゃ壊れない。
自分でも呆れるくらい、長保ちする。
現物を確認せず、通販で仕入れても同様だ。
おいらの名義で購入さえすれば、壊れやしないのさ。
普通に使う分にはね。
だから、このあいだの《夜間撮影用ボディカメラ》。
断言するけど、あれが壊れたのはおいらのせいじゃない。
狼男が乱暴に扱っただけだぞ!
───さて。
───共用PCのほか、タブレット端末を含む各自の私物をチェックして。
あとは、頭首様のノートPCで最後なんだけどさ。
・・・相変わらず凄いなぁ、これ。
おいらもこれ迄、色んなのを見てきたけどね。
こんなに状態が良いのは、滅多とお目にかかれないよ。
日本製、T社のノートPC。
パールホワイトの天板に、デフォルメされた黒竜の小さなステッカー。
おいらが質問しなくたって、まあ、喋ること喋ること!
自分がどれだけ、大切に扱ってもらってるか。
常日頃、感謝の言葉を掛けてもらってることもさ。
全力でアピールしてるね、このコ。
”各部に一切、異常無しです!”
”低温下での使用も無く、新品同様!”
”いつだって定格通りの性能を発揮出来ますよ!”
そういう事を、全部教えまくってくれてる。
人間や吸血鬼で例えるならきっと、『ニッコニコの笑顔』なんだろうなぁ。
うんうん。
頭首、おいらのアドバイスをちゃんと守ってくれてるんだね。
PCに限らず家電製品というものは、低温が大敵だ。
『夏場の熱暴走』より、『冬場の低温使用』のほうがよっぽどヤバい。
どうしてか、って?
熱暴走は、適切な温度まで冷やせば解消されるけれども。
低温状況下での電源投入は瞬時に、コンデンサーを激しく痛めてしまうんだ。
冬の寒い朝、欠伸しながら暖房のスイッチを入れて直後に起動するとか。
そういうのは絶対、やっちゃいけない。
しっかりと部屋が暖まってからじゃなきゃ、危険だぞ。
コンデンサーに入ったダメージは、けっして抜けないのだ。
後で暖まったとしても、治らない。
痛み具合はどんどん蓄積される。
それが劣化を促進し、挙動が不安定になって、最終的に壊れる。
運が悪いと、直接に関係しない箇所まで巻き込む。
電源ユニットやマザーボードを交換し易い、デスクトップ機ならともかく。
そうでないノート型のPCの場合、それはほぼ『買い換え』を意味してしまう。
大切なPCを長く保たせないなら、暑さに気を付けるだけでは足りない。
使用者が快適なくらいの室温で使いましょう、ってことなのさ。
───頭首に起動してもらったノートPCの、S.M.A.R.T.情報を確認。
───SSDの状態は良好で、温度ログに異常値は無し、バッドセクタ無し。
S.M.A.R.T.以外の各種ログもチェック。
Trimを含め、自動系のタスクでエラーが発生した痕跡は見当たらない。
よし、それなら。
今度はインストール済みのアプリを立ち上げ、中程度の負荷を掛けて検証。
CPU温度、周波数・・・想定内の値で収まってるね。
電圧の推移にも、不自然な箇所は無さそうだし。
PC自体が主張している通り、これは完璧な『健康優良状態』だよ。




