569話 Special Worker 02
───そんなおいらが本日、本家の屋敷にお邪魔してるのは。
───久方ぶりの、数少ない『仕事』の為なのさ。
何をやっても最低ランクな、肥満体型の《吸血鬼崩れ》だけども。
唯一、仲間の役に立ちそうなのは、コンピュータ関係。
世間で言うところの『PC』に絡む事だけは、そこそこだと自負している。
コンピュータが、研究機関の専門職員しか触れぬ『巨大システム』だったのが。
一般でも扱える『パーソナルな機械』になった時。
おいらは、力の限りに訴えた。
”この先、こいつはどんどん進化する”
”やれる事が増えてゆくし、これでしかやれない事だって産み出される”
”こいつを如何に理解し、独自の何かをさせられるか!”
”他者より先にこれを使い熟せば、間違いなくアドバンテージが!”
何も取り柄の無いおいらが、本家に押し掛けて熱弁を振るった。
その当時、『PC』の知識がある奴なんて、人間社会にすら殆ど居なくて。
にも関わらず、アホみたいなお値段だった『それ』をさ。
買ってくれ、と。
買ってくれなきゃ泣くぞ、とばかり、子供みたいにさ。
───そりゃもう。
───分家衆・筆頭は、大反対。
筆頭って現在でこそ、《新しいモノ好き》だけども。
昔はガチガチの保守派。
先代の筆頭がやってきた事から逸脱しない、堅実路線だったからね。
勿論、それは褒められるべき点。
そして、最大の難関でもあった。
まあね。
おいらの主張なんて、まともなプレゼンテーションになっていない。
”とにかく、デカくてお高い『この箱』を買ってください!”
”まずは使ってみて、それから学びましょう!”
それ以上の説明が出来ない。
そんなのが相手にされる訳がない。
───でも、頭首は違ったんだよね。
”『これ』が何であり、実際にどう役立つのか分からないわ”
おいらが持参したパンフレットを眺め、彼女は言った。
”けれども、私やクライスに理解出来ないのなら”
”他家の吸血鬼も、同じ反応を示す筈”
”即ち、『これ』は対処法が確立されていない《武器》”
”他家よりも早期に熟知、運用すること”
”先行した側にこそ多大な優位性をもたらす、そういう事ね”、と。
───パソコン、買ってもらえました。
けっして潤沢ではない本家の資産が、取り崩され。
民生品としては最高級のやつ、渡されました。
もうおいら、PCに夢中になっちゃってさ。
他に何をするでもなく、かかりっきりで閉じ籠もってさ。
だけど、怒られたりしなかった。
それどころか、《株式を購入する》というおいらの提案まで受け入れてくれて。
今じゃあ誰もが知る、超有名企業の株。
頭首はおいらを信じて、『全力買い』したんだよ。
売却時には、途方もない金額になったそうだよ。
文書を作成すること。
データとして管理、保存すること。
独自にプログラムを組み、自動処理化して時間を節約すること。
高速応答性。
使用者がもたらすミスを、PCの側で事前に防止すること。
───予想通り、PCによって出来る事は飛躍的に増加し。
───それをもって頭首も、購入台数を増やした。
おいら気付いたら、『PC関連』が仕事になってたよ。
ハンガリーで最も早くネット回線を引いたのは、我等ズィーエルハイト。
他家が重い腰を上げて《IT化》とか言い出した頃には、もう手遅れ。
こっちはとっくに、攻撃と防衛のシステムを整えてます、ってわけ。
お金も随分と、儲かったみたいだね。
『仮想通貨』に関し、筆頭から求められて何度か助言したよ。
ブームは終わっちゃったけども。
現在は、『AI絡み』かなぁ?
『仮想通貨』同様、超短期保有が基本。
小幅であろうが一度上がれば、二度目を待たずに全売り。
技術としてのAIは、まだまだ危うい。
法律が追いつかず、規格もバラバラ。
その上、精度もマズいよねぇ。
しれっと間違うんだけど、使った側は検索エンジンで出た結果並に信じる。
信じ切ってしまう。
自動でお絵描きしてくれる分には、面白いけれどね。
重要な事を任せるのは危険ぽい。
現状では実験か、マネーゲームの対象として扱う以外に期待したら駄目。
『誰もが安心して低コストなシステムで使える』のは、当分先な感じだ。




