568話 Special Worker 01
【Special Worker】
基本的に生物というものは、存在を維持する為に何らかの努力が必要だ。
生き残るべく、糧を得るべく。
『何もしない』では、どうにもならない。
そこに在るだけでは、捕食されるか餓死するかで、呆気なく終了する。
頑張っていないように見える植物すら、その内側で様々な事が行われていて。
《二足歩行者》であれば、しなければならない事は更に増える。
したい事だって、次から次に出て来て当たり前。
そして、より良く安定した生活を望むなら。
努力を『貨幣価値』に変換する手段が、どうしたって必要となってくる。
───けれども、おいらの場合。
───大体にして、暇だ。
殆ど仕事が無いから、忙しくないし。
2〜3週間、一歩も部屋から出ないことだって、ザラだ。
真っ当に働かなくていい。
やりたい事に掛かる『膨大なコスト』も、自分で払わなくて良い、ときている。
そりゃあ、楽と言えば楽だけど。
その代わりに誇りなんてものは、バッサリ捨てなきゃいけない。
大きな顔して肩で風切って歩けると思ったら、大間違いだ。
控えめに、目立たぬように、ひっそり生きるのがデフォルト。
そして、『食わせてくれている』皆様に、感謝の心を忘れてはならない。
これ絶対、大切。
まあ、おいらに大層な仕事が無いのは、当然だ。
大抵の事が出来ないから。
無駄に肥え太った体型のクセして、重い物ひとつ抱えられない。
走れば転び、跳べば着地に失敗。
じゃあ頭が良いのかというと、そっちも自信無し。
興味を持てない事柄を充てがわれると、全然集中出来ない。
やりたい事をやりたいようにしか、やれない。
そこに追加して、もひとつ駄目なのが。
───おいら、クソ弱い。
───デタラメに、呆れ返るくらいに弱い。
ハンガリーの《弱者集団》たるズィーエルハイトにおいて、断トツの弱さ。
これ即ち。
全世界の《吸血鬼》の中で、最弱!!
腕力が皆無で、俊敏性が皆無で、持久力が皆無で。
魔法まで『からっきし』ときてる。
肉体再生力すら、有るのか無いのか分からないレベル。
”具体的にどれだけ弱いか”、って?
人間の───10代後半のお兄ちゃん2人組に、ボコられたことがある。
何ら抵抗出来ず、延々と袋叩き。
文字通り、サンドバッグ状態。
そして結構な重傷を負って、からくも仲間に救出されましたよ。
正直に言うとアレ、相手が1人でも勝てなかった。
余裕でやられてる。
人間に負けるような吸血鬼なんて、普通はいないさ。
有り得ないっての。
遥か昔。
ズィーエルハイトが『三家合同』に侵攻された、あの日。
おいらが生き残れたのは、あまりに弱すぎたから。
ワンパンで吹っ飛び、再生能力が低すぎて『死んでる』と誤解されたからだ。
うん。
しみじみと思うけども。
おいら、生まれる家を間違えてたら、速攻で追い出されてるよ。
こんな穀潰しを抱えてくれる所なんか、他には絶対ありゃしない。
散々馬鹿にされるか、徹底的に無視されまくって。
結局、自主的に棺桶引いて『出家』せざるを得なくなり。
ヤケクソで血を吸おうと人間を襲えば、返り討ちの憂き目だ。
どう考えても、野垂れ死にの末路しか浮かんでこないな。
ここまできたらもうコレ、『自慢』だけどさ。




