564話 世界の?
【世界の?】
───XXィラーXXワルツは、緊張していた。
普段よりもやや、球体を萎縮させ。
ぼたり、じゅう、と汗を零し。
だが、お客様に失礼があってはならない。
こう見えて自分は、『見栄え』に拘るほうだ。
体からは何だか色々と垂れはするが、それにだって誇りがある。
格好を付けている。
当然『もてなし』にも、手は抜かない。
広間へ辿り着くまでの《清浄空間》と、《試練の回廊》。
それをすっ飛ばして直通で訪れるようなお客様に対しては、特にそうだ。
───されど。
───『真のもてなし』とは自己主張ではなく、相手の心情に寄り添うもの。
「・・・少し、騒がしいわね」
それが聴こえた瞬間。
XXィラーXXワルツは即座に、楽団の演奏を止めさせた。
ああ。
分かるのだ、知識の集積者たる自分には。
目の前の存在が言う『少し』は、『とても』という意味だと。
まずいぞ。
これは盛大な失敗!
好んで観察している、《あの遠い星》の文化で表現するならば。
”コレ、アカンヤツヤ!”、だ。
「あら。素敵ね」
え?
「そういう類に関しては、『日本式』のほうが好ましい。
フランスのものはどうしても、社会風刺に偏りがちで」
そ、そうなのか。
知らなかった。
自分もまだまだ、努力が足りないようだな。
「足らないというより、目を向ける方向にも注意してほしいわ」
ぎくっ!!
「お隣の星が、53%ほど燃えてしまったけれど。
彼等が地球に押し掛ける前に、制止するべきだったでしょう?
貴方の管轄内である訳だし」
いや、それは本当にゴメンナサイ!
ちょっと目を離していた隙に、あんな事になってしまい!
「彼等は進化の課程で、《自力で増える能力》をほぼ失った。
その上、管理総会でも《今後は総数を調整しない》と決議されているの。
あれが絶滅した場合は、巡り巡って貴方にも影響するけれど?」
はい。
自分にというか、自分を含めた世界、全部にですよね。
「理解しているなら、これ以上は言わないでおくわ。
ああ、そう固くならないで。
貴方の事は《管理官》としてだけじゃなく、個人的にも気に入ってるの。
感情表現に乏しい私が何とか普通に振る舞えているのは、貴方のおかげ。
こうやって貴方を、『模倣』しているからよ?」
ええと───あの。
真似るにしたって、そもそも形状が違い過ぎるんですが。
一体、どのあたりを?
「・・・・・・」
こっ、これは。
あれだ。
───”ナンデヤネン!”
「ふふ。とても良いわね」
流石に直接は叩けず、咄嗟に出した《腕もどき》は空振ったが。
この『おもてなし』はどうやら、お気に召したようだ。
ニホン式カンサイ流の『ツッコミ』は、本当に万能だ。
心強い。
「あとは、ちょっとした確認」
うん?
「《管理官》に就任するまでは、気にしていなかったのだけれど」
お客様が、ふと首を回して左側を見た。
??
そこにいるのは、自分の眷属達だが。
彼等が、どうしたのだろうか。
「・・・いざという時に、あの娘を借りてもいいかしら?」
『あの娘』?
視線を追ってみれば、その先にいたのは。
ええっ!?
フリューアンゼ??
ちょっと待って。
待ってください。
《いざという時》とは、どんな時だ?
フリューアンゼはドラゴンだから、全然強くないし。
大きさはそこそこでも、次元飛行さえ出来ない子供だぞ?
「そういう部分は、さしたる問題じゃないわ。
ママに似て美しくて、パパに似て不思議な力を持っていて。
私が少し《後押しすれば》、ある意味、貴方より凄いかもね?」
当のフリューアンゼは目を真ん丸にして、何の事だか理解していない様子だ。
母親であるミラスハヤムはその隣で、何故か嬉しそうに何度も頷いているが。
──────。
いざという時。
それは、ひょっとして。
「あくまで、可能性の話よ。
そういう方向でも検討している、という事。
最近どうしてだか、自分の子供が可愛らしく思えてきて。
もう幾許かは、《母親》の比率を上げてみようと考えているの」
ほほう、それは!
とても素敵なレボリューション!
そうか、それでか!
前回の訪問時に比べ、若干だが印象が異なっている。
4割くらい『会話量』が増加したのは、その影響か。
うむ。
親子というものは、特別な関係だ。
損得や理由の有る無しに関わらず、永遠の愛情で結ばれるべき。
これまで何度も、それを指摘すべきか悩んできたのだが。
自ら気付いたのであれば、心より祝福しよう。
ビバ、親子!
万歳、親子!
自分には最初から親というモノが作られていない故、実は良く分からないが!
「なんでやねん」
いや、ちょっと使い方が違う。
そこにツッコミを入れられても困る。
そういう具合に決めて此処に自分を《配置》したのは、そちらだろう。
まあこんな暮らしも、それほど悪くはないのだが。
永遠たる肉体に加え、住まうは宇宙の端のほう。
周囲の星の知的生命も、あんまり面白くない。
彼等はとっくに多様性の時代を過ぎて、緩やかに終焉へと向かっている。
どうしたって、ノーイベントでノーハプニングな毎日だ。
しかし、ヘタな刺激を求めて『やらかす』よりも、、平和と平穏が一番。
自分は何万年もかけて、それを学んだのだ。
《遠い星》で君が娘さんと仲良くできるよう、応援するとも。
今迄の分を取り戻すくらいに、たっぷりと愛情を注ぐといいぞ。
ラブリー、親子!
スイート、親子!
「そうね。
50年程度、次元封印を施した小部屋に監禁して。
毎夜、毎晩。
”はしたない娘ね”、”そんなに叩かれるのが好きなの?”、と鞭を振り上げ」
”ナンデヤネンッ!!??”
かっ!、と目を剥いて。
XXィラーXXワルツが、渾身のツッコミで振り回した《腕もどき》。
それは、遠心力で細長く伸びた挙げ句、勢い余って体に巻き付くこと2回転。
最後は『ヌンチャク』と呼称される武器の如く、頭部に炸裂した。
結構、痛かった。
何だ、これは。
全く分からない。
親子って、ナンヤネン?───




