表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
559/743

557話 聞いて 06



「・・・分かるわ、デイルス」


「な、何が分かるというのだ?」


「とても良く分かるのよ。


つまり、貴方は。

首輪を()めてもらい、その鎖を握ってもらって。

鞭と罵倒と、冷ややかな視線による(はずかし)めを受けたい。


そういうわけなのね?」


「ちょっ!待て、カオル!

年頃の娘が、そんな破廉恥な事を口にするのは!」


「年頃は否定しないけど、思春期(おとしごろ)は終わってるから。

そっちこそ、悪魔なのに照れるのはやめて。

これは《愛》より美麗で価値のある、『高尚な性癖(おたのしみ)』の話よ?」


「───え、ああ───」


「強い力を持っていて、莫大な財産もあって。

望めば何でも叶う。

でも、それだけじゃ貴方は満たされない。

足掻いても足掻いても心の(かわ)きに(もだ)え、苦しんでいるのね」


「──────」


「あたしだって、同じよ。

魔法に関して以外の、大抵の事は出来てしまうの。

『今すぐは無理』というものでさえ、実現へ至るヴィジョンは詳細に見える。

資格が必要なら、それを取得すればいいだけ。

お金が必要なら、稼ぐ為の道筋を最短距離で進むだけ。


明日から何処かの会社の経営者になれ、って言われてもね。

今夜中にその業種の知識を頭に叩き込んで、颯爽と出社して。

後はそれを応用、問題点を改善しながら業務を進める。


やれるから、やるわよ。

何の困難も緊張も、感じないままでね」


「自信があるのだな、カオルは」


「事実として認識してるから。《自分がどれだけのものか》なんて」



二階の自室から、魔法で袋菓子を引き寄せて。

個別包装された中身を全部、テーブルの上にあけた。



「チョコレート、嫌いじゃないならどうぞ?

思い切り、庶民向けのやつだけど」


「うむ。有り難く頂こう」



『真っ黒なライトニング』という(うた)い文句のそれを、素直に掴む王子。


そうよ。

最初からそうしてれば、余計な(いさか)いで時間を無駄にしなくて済んだのに。



「世の中には、自分という器を知らずに生きる者もいる。

知った上で認められず、意地を張ることだって出来るけど。

あたしや貴方みたいに、元々の出来が良くて。

悪い意味で己を知り尽くしちゃってるタイプは、苦労するのよ。


誰も叱ってくれない、注意されない。

何があっても自分で解決、反省、より良くしてゆく。

多少の不運なんて、刺激にもならないわ。

進めば進むだけ、他者との差が広がってゆく。

頑張れば頑張るほど、周囲には誰も居なくなる。

孤独になってしまう。


だから。

思うの。

願うのよ。


絶対的な正しさと圧倒的な力によって、打ちのめされたい。

逆らう事なんて出来っこない、『至高の存在』から支配を受けたい」


「──────」


「実際に見て、知ってしまえば尚更よ。

誰かにとってそれは、『アイドル』や『神様』かもしれないけれど。


あたしとデイルスにとっては、『うちのお母さん』だった。


そうでしょう?

もう他の何かでは、替わりにならないのよ。

絶対に」


「───そう、だな。その通りだ、カオル」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ