557話 聞いて 06
「・・・分かるわ、デイルス」
「な、何が分かるというのだ?」
「とても良く分かるのよ。
つまり、貴方は。
首輪を嵌めてもらい、その鎖を握ってもらって。
鞭と罵倒と、冷ややかな視線による辱めを受けたい。
そういうわけなのね?」
「ちょっ!待て、カオル!
年頃の娘が、そんな破廉恥な事を口にするのは!」
「年頃は否定しないけど、思春期は終わってるから。
そっちこそ、悪魔なのに照れるのはやめて。
これは《愛》より美麗で価値のある、『高尚な性癖』の話よ?」
「───え、ああ───」
「強い力を持っていて、莫大な財産もあって。
望めば何でも叶う。
でも、それだけじゃ貴方は満たされない。
足掻いても足掻いても心の渇きに悶え、苦しんでいるのね」
「──────」
「あたしだって、同じよ。
魔法に関して以外の、大抵の事は出来てしまうの。
『今すぐは無理』というものでさえ、実現へ至るヴィジョンは詳細に見える。
資格が必要なら、それを取得すればいいだけ。
お金が必要なら、稼ぐ為の道筋を最短距離で進むだけ。
明日から何処かの会社の経営者になれ、って言われてもね。
今夜中にその業種の知識を頭に叩き込んで、颯爽と出社して。
後はそれを応用、問題点を改善しながら業務を進める。
やれるから、やるわよ。
何の困難も緊張も、感じないままでね」
「自信があるのだな、カオルは」
「事実として認識してるから。《自分がどれだけのものか》なんて」
二階の自室から、魔法で袋菓子を引き寄せて。
個別包装された中身を全部、テーブルの上にあけた。
「チョコレート、嫌いじゃないならどうぞ?
思い切り、庶民向けのやつだけど」
「うむ。有り難く頂こう」
『真っ黒なライトニング』という謳い文句のそれを、素直に掴む王子。
そうよ。
最初からそうしてれば、余計な諍いで時間を無駄にしなくて済んだのに。
「世の中には、自分という器を知らずに生きる者もいる。
知った上で認められず、意地を張ることだって出来るけど。
あたしや貴方みたいに、元々の出来が良くて。
悪い意味で己を知り尽くしちゃってるタイプは、苦労するのよ。
誰も叱ってくれない、注意されない。
何があっても自分で解決、反省、より良くしてゆく。
多少の不運なんて、刺激にもならないわ。
進めば進むだけ、他者との差が広がってゆく。
頑張れば頑張るほど、周囲には誰も居なくなる。
孤独になってしまう。
だから。
思うの。
願うのよ。
絶対的な正しさと圧倒的な力によって、打ちのめされたい。
逆らう事なんて出来っこない、『至高の存在』から支配を受けたい」
「──────」
「実際に見て、知ってしまえば尚更よ。
誰かにとってそれは、『アイドル』や『神様』かもしれないけれど。
あたしとデイルスにとっては、『うちのお母さん』だった。
そうでしょう?
もう他の何かでは、替わりにならないのよ。
絶対に」
「───そう、だな。その通りだ、カオル」




