552話 聞いて 01
【聞いて】
───あたしは、『悪魔』という不思議な生物に対して、微妙な立場にいる。
しばらく前に、喧嘩を売りまくったというのもあるんだけど。
それをやらなくなった現在も、お互いに距離を取り合ってる、というか。
悪名もしくは、”ヘンな奴がいる”って情報が、向こうに流れているのだろう。
そして、こっちもこっちで、少なくとも今は勝負出来ない、したくない。
まあ、《魔法》をやっている身として、彼等は目標でありライバルだ。
あちら様は生まれつき凄くて羨ましいな、という『やっかみ』がある。
いや。
あったんだけど、殆ど消えたかな。
無い物ねだりしても得が無いばかりか、時間の浪費。
それに、もしもあたしが悪魔としてこの世に生まれていたら。
多分、魔法に興味を持たなかったんじゃない?
あるのが当たり前、使えて当然の、普通過ぎてさ。
その場合、今頃あたしは何に熱中してたんだろう?
もっと難しい事?
それか案外、『人間』に興味が沸いたりなんかして?
───プリントアウトした用紙に蛍光ペンで線を引き、一枚捲る。
大学は冬休み。
本来は思う存分、魔法研究に没頭したいところなんだけど。
残念ながら、今あたしが居るのは二階の自室でも研究室でもない。
一階のダイニング、食卓に何やらかんやらと広げて作業している状態。
うう。
どうにも集中しきれなくて、イライラするー!
「───おい、女。僕のカップが空になったぞ」
向かいに座った男が、傲慢さを隠しもしない口調で言う。
「・・・・・・」
「返事くらいしろ、給仕。
何だ、その無礼な態度は。僕は客だぞ」
「自己紹介は済んでるんだけど、《女》って誰よ?
あと、客なら客らしい口の訊き方を勉強して、出直してこい」
「ふん、愚か者め。
礼節やマナーを完璧に弁えた上で、こうやっているのだ」
「・・・・・・」
一旦、《私情》をオフにして解説すると。
こいつは、篠原センセの知り合い。
診療が終わるまで相手をしてやってくれ、と頼まれている。
頭を下げて、頼まれちゃってる。
ちなみに、『悪魔』だ。
性格が悪いとかの意味じゃなく、正体が『悪魔』で。
そこに加えて、実際の根性が相当にひん曲がっている。
見た目だけなら、素晴らしいと認めよう。
俳優やアイドルグループに熱を上げるようなタイプなら、即、ハマる。
世界最高峰の、『完全美形』様だ。
こんなのが表通りをふらつけば、人だかりでエラい事になる。
海へ出れば、海が割れるだろう。
王子様だ。
誰がどう見ても、100人が100人、目をハートマークにするような王子様だ。
そして、ここからは《私情》をオンにして続けるが。
こいつ、王子様ではあるけれど。
白馬に乗ってなくて、外見以外が真っ黒な『最低男』。
暗黒卿だ。
センセの話によれば、《病魔》だか《細菌の帝王》だからしいけどさ。
そういう悪魔の『仕事』みたいなのを別としても、態度が腐ってる。
ナメ腐ってる。
ふざけた態度は、悪魔の住んでる世界でやってくれませんかね?
ここは人間の暮らす場所で、『心遣いの国・日本』なの。
反吐が出るったら、ありゃしないわ。
センセのお願いじゃなきゃ、とっくに二階へ戻ってるよ、あたし!




