546話 宇宙戦士と究極爆弾 05
「ねぇ、君達。
アレの中身は、食べれるのかい?」
「え?ええと───可能か不可能かで言や、まあ可能ですけど」
「普通は食べませんよ」
「つまり、私が食べる気であれば、食べれるんだね?」
「そりゃ、一応は」
「でも、食べないほうがいいですよ、長官」
「しかしだね。私はアレを自室に飾る気は無いんだよ。
いや、せっかく作ってもらって悪いけれどもさ。
出来栄えが良かったとしても、自分の彫像を眺める趣味はないし。
置き場所にも困るよ、あんなのは」
「あーー、そのーー」
「とりあえず、一旦は置いてみましょうよ、ね?俺らが運びますから」
「嫌だよ。
私としては、倉庫の奥深くにでも隠してしまいたいんだけどさ。
でも、アレの中身が《食べれる》なら、話は別だ。
《食べれる》ってことは、《痛む》、《腐る》わけだろう?
それはマズいんじゃないの?」
「うーーん。痛むっちゃあ、痛みますね」
「腐るっちゃあ、腐るか?でも、腐るって表現するのはなんか、こう」
「ねえ。ぶっちゃけ、どの程度のナマモノなの?」
「どの程度って」
「どういう基準で話をすりゃいいんです?」
「ほら、《食べ物》にも色々あるじゃない。
生魚か干物かで、保ちは全然違うでしょうが。
そういう方向でいくと、『どっち寄り』なのさ?」
「ええと、その。一応水分は、含んでると思うんで」
「どっちかというと、生魚───ですかね?」
「・・・よし。ぶっ壊そう」
「ちょっ!駄目駄目っ、駄目ですよ!」
「飾りモンなんだから、飾りましょうよ!」
「ナマモノを放置するほうが駄目でしょ。
それに君達だって、中身を評価しろって言ってたよね?
壊さなきゃ、評価しようがないよ」
手近なテーブルにグラスを置き、壁際へと向かう。
ざあっ、と波が引くように近くに居た連中が離れていった。
「長官、やめましょう!!」
「ここでやるのは、問題が!!」
ははは!
分かったぞ!
こりゃあ、絶対に《劇物》だ。
シュールストレミングか、ホンオフェか?
それとも、クサヤか?
そういう系の、食べ物ではあるが食べたくはない、アレ。
自室で開封して私を悶絶させたかったんだろうが、そうはいかない。
ここで今!
全員道連れにしてやろう!!
覚悟しろ!!
「うわあ!!長官!!」
「本当に駄目ですって!!」
ええい、聞く耳は持たん!
私に似ても似つかない顔で良かったよ!
破壊するのに躊躇わずに済む!
まずは石膏像の首を折り砕いてしまおうと、両手を伸ばした時。
───びしり、と像の胸部で音が鳴った。
「え」
そのまま縦方向に罅が入り、どんどん伸びて。
「な」
いきなり、爆発四散。
飛び散った破片が、顔面にブチ当たって。
「じゃああ〜〜〜ん!!あたしだよ〜〜〜ッ!!!」
聞き覚えのある声と、見覚えのある姿に。
「うわあああああっ!!!」
ダグマイアー・ドイ・ジェイルスは、大きく仰け反って絶叫した。
「あああああああっ!!!」
ちなみに、もう一度叫んだのは自分の声に自分で驚いた結果である。
「ダグラ───違った、ダグマイアー!!
あたしと勝負しようッ!!
一回だけ!!───ね!?
一回だけでいいからッ!!」
「・・・・・・」
この時点で彼は、すでに白目を剥いて気絶しかけていたのだが。
真正面から、たっぷりとウイスキー臭い『宿敵』に両腕を掴まれ。
臨界直前の虚数並列エンジンの如くガタガタと揺すられては、意識を失えず。
「え?───そうか、そうよね!
『剣士に言葉は要らない』、そういう事ね!
うんうん!分かるよ、凄く分かるッ!
じゃあ、外へ行こうッ!」
「・・・・・・」
「宇宙って、いいよねー!
思いっきり暴れても、物が壊れたりしないし!」
振り回されるままに顎が落ちたのを、《承諾》と見做された悲劇。
基本的に壊すことを前提に生きてきた『究極の爆弾』は、行動が早い。
即座に体育場の出口へと引き摺られてゆく、虚ろな目の『英雄中佐』。
この日。
ダグマイアー・ドイ・ジェイルスは、『壁』を越えた。
遥か険しき、《剣の道》の。
世界で未だ二名しか進んでおらぬ、絶望的な高さの『壁』を。
微塵も望んでいないに関わらず、済し崩しに乗り越えてしまい。
その上で。
生涯二度目の《敗北》を味わうことになった。




