545話 宇宙戦士と究極爆弾 04
「・・・アレさ。もうちょっと、どうにかならなかったの?」
おそらくは、私へのプレゼントなのだろうが。
酷いな。
とんでもなく酷過ぎる出来栄えだ。
特に、顔。
適当極まりない造形で、ヘタに見つめたりしたら嗚咽してしまう程。
『二刀』という分かり易いシンボルが無ければ、誰がモデルか分からない。
控えめに言っても、宇宙全体を冒涜しているレベルだろう。
真面目に熱意を込めて作製したわけでも、笑いを取る為に努力したのでもなく。
とにかく中途半端で、雑だ。
その上、無駄にデカい。
等身大スケールではなく、さりとて1/2や2/3より大きいというのも気持ち悪い。
「ま、ま、長官!こういうのはとにかく、雰囲気重視で!」
「俺達としても、ほら!急な事で時間が無くて、ですね!」
「それにしたってさぁ・・・」
ガリィベックを助けるように、横からダムランが加わって来たが。
雰囲気重視も何も、視界に入っただけで気が滅入るんだけど。
あと、『時間が無かった』って言うけどねぇ。
君ら、私が帰還するより随分前から宴会してるよね、絶対。
管制官の娘達とか、酒に弱い連中が居ないじゃん。
とっくに潰されて、自室で寝込んでるんだろ?
「長官はこの基地で最も上に立つ、公正な御方ですから!
私情は抜きでいきましょう!」
「見た目じゃなくて、中身こそ評価されるべき!」
「ふう〜〜ん?随分、事務方みたいな事を言うねぇ。
けれど、こうして揃ってアルコールを摂取してる今は、職務中じゃないし。
私だって私情くらい挟むよ。
それに、こういう種の芸術に於いてはさ。
『見た目』こそが、ほぼ全てじゃないの?」
「あーー」
「そのーー」
「でも、ちょっと気になる発言ではあるね。
『中身を評価してくれ』、だって?」
「そ、そう!」
「真実は全て、この中身に!」
「それ、見なきゃいけないって事かい?そういう流れなの?」
「いやぁ、見る、というか」
「とにかく、長官の部屋にでも置いてもらえれば」
おいおい。
君達、思いっきり目が泳いでるぞ。
怪しさ満点じゃないか。
「・・・まさか、アレの中身は《危険物》かい?」
あまり追い詰め過ぎない程度に脅しを掛けるべく、声の調子を下げる。
「許可無く保管庫からヤバいのを持ち出して、埋め込んだとか?
私を暗殺でもする気かな?」
「ちょっ、そんな!!そりゃあ言い掛かりってモンだ!!」
「やめてくださいよ!基地の仲間はみんな、家族じゃないですか!!」
「うんうん。そうだよね、家族だよねぇ。
私だって、そう信じたいよ?
だから、中身がマカダミアナッツ入りのチョコだと嬉しいんだけどね?」
「や、それは」
「すみません、残念ですが」
「あらら。違ったか。
その反応だと、そもそも《食べ物》ではなさそうだなぁ」
「──────」
「──────」
「かと言って、金塊や宝石って訳でもないだろうし。
さてさて、何だろうねぇ」
黙り込んでしまった、撃墜王2名。
彼等から視線を外さぬまま、腕組みして考えていると。
脛の横に、コツコツと何かが当たる感触。
「おや」
”お帰り、長官”
「ああ、有難う。ただいま」
”───《食べ物》とは一体、何か。
食べるから、《食べ物》か。
誰も口にしなければ、トマトは《食べ物》ではないのだろうか───”
頭突きからものの数秒で離れてゆく、尾の短い茶白の背中。
《哲学猫》、リベット少尉だ。
彼の仕事は、意味深な言葉を残して素早く立ち去る事。
あとは。
地味に小さなボルトやナットを溜め込んでいるが、頼めばすぐに返してくれる。
「これは・・・タイミングからして、重要なヒントだろうなぁ?」
ニヤリ、と笑ってみせれば、撃墜王コンビが更に挙動不審になる。
ほほう。
やっぱり、当たりか。
いや。
実のところ、全然分かっちゃいないんだけれども。




