540話 知らない騎士団と疑惑 11
「そういう切っ掛けでな。
ドンソン司祭の噂は、たちまち広まった。
しかし、増えたのは話を聞きたいという悪魔だけじゃあない。
《邪魔者扱い》する連中も、急速に数を増した。
その対処を含め、ドンソン司祭を裏から守護し、讃えようと結成されたのが」
「『聖ドンソン影十字騎士団』」
「ああ。
団長に就任したのは、一番最初に愚痴った悪魔。
副団長は、さっき出て来たインテリのボスだ」
「ボスなのに、《副》なのか」
「こればっかりは悪魔としての実力より、薫陶を受けた順番らしい。
団員同士の争いも、固く禁じられていてな。
だから、俺の姉貴───かなり強くて有名な悪魔なんだが、一般団員だぜ?
ちなみに、その姉貴が結婚式に招待した唯一の人間が、ドンソン司祭だ」
「ふうん。
団員の義務は・・・反感を持ってる奴等から司祭を守ること、か」
「『義務』って、明確に決まってる訳でもないけどな。
ボランティアみたいな感じで、自然とそうなっちゃあいるが。
団員のメリットとしては、あの白装束と会員証が無償で渡されるとか。
あとは、専用ページにアクセス出来るくらいか」
「専用ページ?」
「教会で行うバザーの日程が見れて、過去の《説教》の動画が視聴可能。
あとは、あ〜〜、何だったけな」
「・・・バルスト」
「うん?」
「それ、僕も入団できないか?」
「え??本気で言ってるのか??」
「本気だよ。人間だと駄目かな、やっぱり」
「───いや───前例は無いが、駄目だという事も無い、はず」
「おっ!」
「司祭自ら悪魔を、『巨大な社会集団』の範疇に入れてるからな。
それを讃える『騎士団』が人間をハネてちゃ、道理に反するだろうよ」
立ち上がったバルストがスーツの胸ポケットを探りつつ、また換気扇に向かう。
「そうだな───俺からの推薦って形で、団長に話してやろうか?」
「頼む!」
「それと、任務の報告書。このままを書くって訳にゃいかないんだろ?」
「あーー、まあ、その」
「実は、こういう時に備えて事前に『ダミー団体』が用意されてるんだよ。
その使用許可も合わせて、連絡してみるぜ。
お前の入団に関しては面談があるかもしれんが、いいか?」
「勿論、『どんと来い!』だ。
全部正直に話すだけだし、僕のほうからも入団するメリットを提示出来るぞ」
「ん?」
「人間の僕を受け入れてくれるような悪魔の団体なら。
ドンソン司祭に絡む《ヴァチカン情報》を流すのも、やぶさかじゃあない」
「おい、そこまでやっていいのか??」
「いいんだよ。
バルストとだって、そういう付き合いだろ」
「───お前、ホント変わったよなぁ」
「人間は命が短いからな。
その分、やり過ぎなくらい努力をしないとさ」
僕自身、驚きだね。
何とか20代のうちに、《文句だけ垂れてるのがみっとも無い》と気付けたよ。
あとは、まあ。
ひたすら行動するしかないよな。
勇敢なる、ドンソン司祭のようにさ!




