表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
540/743

538話 知らない騎士団と疑惑 09


ハンバーガーとポテトを完食すれば、セットで付いてきたコーヒーは(から)だ。

バルストが淹れてくれたコーヒーを追加で味わいながら、リラックスタイム。


とはいえ、任務だからな。

やるべき事は、やらなきゃいけない。



「話せるなら、で構わないんだけどさ。

その、『聖ドンソン影十字騎士団』の詳細を聞いてもいいか?」


「ああ。別にいいぜ、お前になら」



キッチンスペースの換気扇の前でタバコを吹かしつつ。

バルストが、思いのほか呆気なく答えた。



「───ドンソン司祭は、『悪魔が見える人間』だ」


「ふむ」


「そして、お前と同じで、見える上に聖職者という立場だ。

だから普通なら、『気付いていないフリ』をするんだろうけどな。

彼は、少しも普通の聖職者じゃなかった」


「そうだな。あれで普通なら、とっくにカトリックは崩壊してる」


「司祭はとにかく、誰の話でもよく聞くんだ。

相手が悪魔であろうと、嫌がりゃしない。

自分から”やあ!”、と挨拶し。

天気や政治、美味い店、どういった話題でもする。

向こうがノれば、幾らでも聞き役になる。

おまけに、宗教の押し売りも全く無し、ときてる。


そりゃ悪魔(おれたち)だって、人間を嫌ってるわけでも、会話を避けてるわけでもない。

顔を合わせる度に話し込めば、次第に『そういう関係』だと認識する。

ランチを共にしてりゃ、仲も深まってゆく。

情だって持つし、こっちのほうから声を掛けるようにもなるさ」



キン、とライターの音がして、2本目に火が灯される。



「───で。

そうやって付き合ってる時にな。

一匹の悪魔が、つい口を滑らせちまった。


”仕事がキツい”

”ノルマが膨大で、どんなに頑張っても叱責される”

”稼ぎの殆どが自分の分にはならなくて、悔しい、情け無い”、ってな」


「・・・・・・」


「そういう愚痴は人間の、それも聖職者に(こぼ)すモンじゃあない。

聞かされたほうも、コメントのしようが無いだろ?

そもそもが『悪魔の仕事』なんて、人間にとっては『悪い話』だ」


「場合によるだろ」


「───有り難いけどな。

そう言ってくれるのは、お前くらいだよ。


とにかく、愚痴った悪魔は口にしてしまった後、”マズい”と思った。


思ったんだが、止まれなかった。

日頃からの鬱憤が抑えきれず、何もかもをブチ撒けちまった。

しかも。

集まってきた仲間もそこに乗っかり、『愚痴吐きパーティー』と化した。


そして、いい加減正気に戻った時。

ドンソン司祭の顔は、真っ赤になっていた」


「・・・・・・」


「───司祭が、言ったのさ。


”私を、上司のところへ、案内しなさい”、と。


一言ずつ区切るように。

おっそろしい顔付きで、静かに言ったんだ。


いやいや。

連れてけ、ったって無理だ。

流石にそれはできない。


悪魔達はやんわりと拒絶したが、司祭は(がん)として折れない。


”私を、上司のところへ、案内しなさい”。


懐から取り出した聖書を手に、一歩も譲ろうとしなかった」


「うわぁ・・・出したのか、聖書」


「出したんだよ。

そんでもって、小刻みに震えてるわけだ。

すでに怒りが、最高潮まで達してたんだよ。


それを見て、悪魔達は考えた。

ドンソン司祭をボスのところへ案内すれば、大変な事になる。

連れて行った自分達も絶対、処罰を受けるに違いない。


しかし、だ。

こうやって仕事そっちのけで長時間くっちゃべってた事自体が、大問題。

ボスだって、間抜けじゃあない。

いつまでも帰ってこないのに気付いて、監視の手を伸ばした筈。


つまり。

すでに『何を喋ったのか』はバレてる筈。


───だったら、これは。


イチかバチかで、司祭に御登場願うか?

なんならもう、その勢いで一派に反乱を起こすか?、と」



小さな円筒状の灰皿に、カチャン、と蓋をして。

バルストが、にやりと笑った。



「本当に行ったのか、その『ボス』のところに」


「行ったぜ。

そんで、一派のアジトへ着くなり。

止める間も無く司祭は、ボスに襲い掛かったのさ。


”貴様あッ!!絶対に許さんぞッ!!”、と叫んでな」


「マジかよっ!?」


「ああ、大マジだ。

人類史上初の、『対悪魔・近接格闘戦』だ。


───しかし、お前も分かってると思うが。

残念ながら人間と喧嘩して負けるような悪魔なんて、いやしない。


豪風と共に振り回される攻撃は、ことごとく(かわ)され。

フェイントからの『聖書フック』も『聖書アッパー』も、(かす)りさえせず。

勇敢なる司祭は一発のヒットも与えられぬまま、第二ラウンド中盤で力尽きた」


「・・・分かってた上で、それでもやったんだろうな」


「多分な。

ゼエゼエと膝を突いた巨漢の司祭に対して、悪魔のボスは汗の一滴も浮かべず。

勝者は誰の目にも明らかだった。


”気は済んだか、人間”

”カトリック司祭として、まず暴力から入るというのはどうかと思うがね”


(さげす)みの目で見下ろすボス。

それからその視線は、司祭の後ろで見守っていた部下達に向けられ。


”さて。お前達が働いていなかった秒数分、きっちりとペナルティがあるが”

”覚悟はできているかね?”


いよいよもってこれは、反乱でもやるしかない、と何名かが腹を括った時。


だがそれは、振り返らぬまま背後に突き出された司祭の手で制止された」


「・・・・・・」


「”気は済んだとも、尊大なる悪魔!”

”過剰な怒りを(しず)めるには、力ずくの勝負に負けるのが一番良いのでな!”


”ははは!それこそ、負け惜しみというものだろう”


余裕の笑みを浮かべる、《百年学院》を卒業したのが自慢の、インテリ悪魔。


しかし、ドンソン司祭は屈しなかった。

それだけで終わるような、普通の人間ではなかった」


「そうだよ・・・そうだよなっ!」



すげぇ!

めっちゃ熱い展開だ!


考えたこともなかったぞ、『悪魔 VS 聖職者』の一騎討ちとか!


映画やドラマに出て来る『悪魔祓い(エクソシスト)』じゃなく、現実!

伝説級のファイトだぞ、これ!



コーヒーカップを持つ僕の手に、思わず力が込もった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ドンソン司祭、凄まじいな、、、
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ