52話 神より奪いし花束 01
毒舌劇場Part2・・・と見せかけて。
悪魔が報復するようです。
【神より奪いし花束】
───いかなる場合も、『最悪』に備える必要がある。
それはまあ、困難であるし。
実際には大袈裟すぎるにしても、だ。
“多分、駄目だろうな”とか、“失敗するだろうな”とか。
それくらいは常々考えておかないと、この世は渡れない。
落とし穴の底で後悔しても、助かる道など無い。
───予測無しで打つ手は、必ず潰される。
自分に才覚があろうが、なかろうが。
相手が愚者であろうが、なかろうが。
思考を放棄した者の行き先は、敗北のみ。
誰も助けてはくれない。
それを信条として、これまで生きてきたからこそ。
雲海をゆっくりと降下してゆく機内で。
僕は、『辞表』を書いていた。
《至急、法王庁へ出頭せよ》
───これが意味するところは、至極単純。
怒られるか。
滅茶苦茶怒られるか。
まさに、2つに1つだ。
・・・ふざけんなよ、クソ共ッ!!
休暇という休暇を、ピンポイントで潰しておいて!!
この上、僕に有り難い説教をくれるってんなら、上等だよ!!
きっぱり、すっぱり、『特務』から降りてやるよ!!
今期の賞与も、アップしてなかったしな!!
いくらなんでも、やってられるかッ!!
辞めてやるッ!!
慌てて後任を探すがいいさ!!
バーカ!!バーカ!!
Axx Hxle!
・・・・・・。
実は、『健康診断で呼びました』、とか。
・・・ないよなあ・・・やっぱり・・・。
ようやくベルトコンベアが吐き出した荷物を受け取り。
リムジンバスの時刻を確認しようと、電光掲示板を見上げた時。
背後から、丁重な低い声が掛けられた。
「お待ちしておりました───どうぞ、こちらへ」
・・・あーーー・・・。
『健康診断』の可能性は今、潰えた。
これは、2番目だな。
完全に、『滅茶苦茶怒られる』コースだ。
誰かと間違えて声を掛けた、という線も無し。
こちらの名前を尋ねないままで、相手は確信を持っている御様子で。
まあ、雰囲気で分かる。
こいつ、教会関係者だわ。
・・・いよいよもって、腹を決めなければならない。
懐には、ありったけの思いを込めて書き殴った辞表。
後は煮るなり焼くなり、好きにしてくれ!
僕にはもう、怖いものなど無いぞッ!!
無敵の美形!!
悪魔の申し子!!
寝た子も泣き喚く、マーカス・ウィルトン様だぞッ!!
案内されるまま、外へ出て。
ヤケクソで黒いセダンの後部に乗り込む。
「目的地まで、ごゆるりとお寛ぎください」
ガチャリ、と。
僕の両手に、手錠が掛かった。
素早く何かを被せられ。
視界が奪われた。
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「─────────え?」




