534話 知らない騎士団と疑惑 05
「───さて、前置きはこのくらいにしておいて。
本日は、『聖書の使い方』についてお話したいと思います」
ゴホン、と咳払い一つ。
ドンソン司祭が表情を引き締めて言う。
「聖書とは、信仰の原点にして基本。
信徒の皆さんにはそういった事を今更、得意気に述べるつもりはありません。
しかしながら、信徒であれども。
そして、信徒でなければ尚、『聖書の本質』について知る者は少ない。
誰かは、言うでしょう。
”聖書の内容が正しい、その保証はどこにあるか”、と。
また誰かは、言うでしょう。
”もしも聖書の記述が誤りであるなら、カトリック信仰もまた誤りなのか”、と」
「ですが。
聖書に《正しさ》は、必要でしょうか?
間違っていない、という証明が必要でしょうか?
獄中の殺人者さえ本を執筆し、それなりに売れる時代です。
聖書の記述が当たり障りのない綺麗事や、眉唾のファンタジーだとしても。
誰を傷つけよ、と推奨しているわけではなく。
所持しているだけで逮捕されるような危険物でもない。
皆さん、聖書というものはですね。
ただの、『道具』なのです。
素晴らしいとか、有り難いとか以前に。
使う為の、使って然るべきの『道具』なのですよ」
「大いなる神の愛を信じ。
同じように誰かを愛そうと努力しても。
悲しいかな、私達は人間です。
イエスならぬ、ただの、ありふれた人間の、一人一人なのです。
世界から争いが途絶えることはないでしょう。
庭の木の枝が屏を越えただけで、隣人と諍いになる事もある。
たとえ、信徒同士であろうともです。
そんな時、どうすれば良いのか───」
ひゅう、と息を吸い込む音が、壁のスピーカーから聞こえて。
───ダンッ!!
卓に手を打ち付ける、巨漢司祭。
「聖書で殴りなさい!!」
一同、爆笑。
「”前から気に食わなかったんだ!”!
”今日こそは決着を着けてやるぞ!”、と!
互いに聖書を手にして、真正面から殴り合いなさい!
審判が必要なら、私が行きましょう!
先に角の硬いところをブチ当てたほうが、勝ちです!
怪我をさせてしまったなら、取り敢えず形だけでも謝りなさい!
大丈夫です!
最終的に、『神は全てをお赦しになるでしょう』!!」
顔面を紅潮させ、バシバシと卓を叩く司祭に、大興奮の聴衆。
まさに、LOL!
日本的に表現するなら、『草が生える』だwwwwwwww
いやもう、何だこれ?
お笑いのライヴか?
《カトリック慢談》っていう、新ジャンルか!?
「───ああ、失礼。
年甲斐もなく、興奮してしまったようで」
ふう、ふう、と荒い息をつく司祭に、また笑いが上がる。
「ええと、若干マズいですな。
これだけで終わりにしてしまうと、私の司祭職が危うい。
流石に、ヴァチカンから追求の手が伸びてきます」
おいおい!www
なんか、ピンポイントで僕を刺してきたぞwwwww
「一応は、もう少し穏便な方法も教えておきましょう。
簡単ですし、腕力は要りません。
誰を怪我させることもありません。
それはですね。
『聖書の言葉』を使って殴る、というやり方です。
ええ───どちらにせよ結局、殴るんですよ」
ヤッバい!
くそウケるんだけど、これ!
いいぞ、ドンソン司祭!
もっとやれ!
誰か動画に撮ってないか?
ネットにUPしてくれよ、マジで!
前回までの分も、全部な!
有料でいい!
盛大に課金してやんよ!wwwww




