533話 知らない騎士団と疑惑 04
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「───些か唐突な話になりますが。
皆さんは、懺悔をしたことがありますかな?」
壇上に立ったドンソン司祭が、小さな卓上マイクを前に話し始める。
「ああ、いや。挙手などはしていただかなくて結構。
おそらく、殆どの方に懺悔の経験はありますまい。
つまり、『懺悔室』を使用されたこともないのでしょう」
「『懺悔室』というのは、ですな。
小さな部屋を衝立で仕切って、更に小さくし。
互いの顔は見えず、声だけが聴こえる、という造りでしてね。
勿論、当教会にもありますよ。
ありますがね。
私の体をそこへ押し込むのは、中々の苦労でして。
その上、夏は暑く、冬は足元から冷える。
できればお使いになられないほうが、お互いの為でしょうな」
ぶふっ!、と何名かの聴衆が吹き出したが。
周囲はそれを気にするでも、唇の前に指を立てて注意するでもない。
「それに加えてですね。
もし皆さんの中の誰かが、意を決して懺悔室に脚を運んだとしても。
残念ながら私共の返す言葉は、たった一つ。
”神は全てを、お赦しになられます”。
懺悔の内容が、どれほど驚くべきものであったとしても。
深い後悔と涙に咽んでおられようと。
それしか言えないのですよ、正直に申し上げて」
「確かに神は、全てお赦しになられる。
それは、本当の事ですが。
しかし。
それこそが神の優しさであるとか、無償無限の愛であるとか。
そういう具合に考えるには少々、早計だと言わざるを得ません」
・・・ん。
踏み込んできたな、これ。
「神に赦されるのは、私達が死した後の話です。
肉体から魂が解放された後でなら、どんな罪も赦してくださいますが。
生きている間には関係ありません。
まったく、これっぽっちも《神の赦し》は適用されません。
死を迎えていない内に許されたいなら、人間が人間を許すしかない。
即ち、何かやらかしてしまって、早急に何とかしたいならば。
懺悔室に来るよりまず、迷惑をかけた相手に謝罪することが大事なのです」
「───謝ったけれど、相手がまだ怒っている?
───どうやっても、許してくれそうにない?
ええ。
悲しいかな、そういう事もあるでしょう。
けれど、それでは困る。
どうしても、生きている間に許してほしい、絶対に。
そんな場合には、ですね。
えーー、あーー。
こういう事を、あまり大きな声で言うと問題があるのですが」
ドンソン司祭は、素早く左右に視線を走らせた後。
かなり声のトーンを下げて、囁いた。
「懺悔室以外の場所で、こっそりと私に耳打ちしてください。
───腕の良い弁護士、紹介しますよ?」
どっ、と大きな笑い声が上がった。
完全に爆笑で、手を叩いてる奴もいる。
いやあ、僕だって思わず笑ったさ。
まるでこれ、何年か前に浅草で観た演芸会だ。
ひたすら沈黙を守って、挙げ句にウトウトするような《説教》とはワケが違う。
こういうの、毎回やってんのか?
そりゃあ、左遷されて当然だよ、アンタ。




