531話 知らない騎士団と疑惑 02
「すみません、もう一度言ってもらえます?」
「今回の任務は、失敗してほしい」
「・・・・・・この世に、完璧はありませんからね。
特務員として最大限の熱意と努力で挑んでも尚、その上で。
残念ながら失敗に終わってしまう可能性は、あると思いますが?」
「慎重な受け答えだねぇ」
「そりゃもう、鍛えられてるんで」
「ならばもう、分かっていると思うんだが。
この任務は、決して拒否出来ないよ?」
「でしょうね!」
「必ず、どんな事があろうとも、失敗してもらいたい」
「ハイハイ、そうですか。
それはそれとして、幾つか聞いておきたいんですけど」
「何かね」
「《失敗してほしがってる》のは、誰なんです?」
「私だよ」
「他には?」
「──────」
おい、黙りやがったぞ。
「他には、誰が?」
「──────リスヴェン枢機卿」
ほら見ろ、やっぱり!
と言いたいところだけど。
マズい。
釣り上げてしまったのが、予想外の大物だ!
「・・・指令書」
「これだよ」
豚から受け取ったそれは、妙に薄っぺらい。
多分、三枚しかないな。
経験上、こういうのは大概、《無茶振り》の案件だ。
”無茶なのは承知だが、完璧にやれよ!!”、というパワハラ任務だ。
まあ、一応は読んでやろう。
社会人としての対応で。
あーー、ええと。
対象は、ドンソン・ハワード?
カトリックの司祭・・・うへぇ、身内絡みか!
こいつが関係してる、《反カトリック思想の団体》を特定せよ?
目眩を覚えつつも、一枚捲ってみる。
二枚目、三枚目は全て、対象者の経歴だ。
ほぼ一年足らずで次から次へと、教区の転出入を繰り返してるな。
勿論、そんなのは本人の意思だけで叶う事じゃあない。
要は、『飛ばされ続けてる』わけだな、こいつ。
上層部の思惑が絡みに絡みまくった、曰く付きの人物ってか。
んでもって、他に手掛かりになるような添付資料は無し??
マジで??
ふざけんなよ??
「・・・・・・」
「どうかね、マーカス君」
「どうもこうも、ないでしょうが。
ていうか、クソですよ、クソ。
これを任務として押し込んできたのは、特段に禿げた爺様の一人で。
それが気に入らない『スーパー禿げ』が妨害したがってる、ってワケですか?」
「どう考えようとも、それは君の自由だがね」
「じゃあ、それで決定で!
あと、これを『どういう形』にもっていけば、『失敗』した事になるんです?」
指令書をパシパシ、と指で弾きながら問い正す。
やる気は全く出ないが、どうせ結局はやらされるんだからな。
そこはちゃんと聞いておきたい。
「《反カトリックのなんたら》に捕まって、僕が殉職したらいいんですかね?
それとも、団体名称や活動実態を明らかにできなかったらオーケー?」
「『失敗』と認められる条件は、ただ一つだよ。
《そういう団体》など無い、と報告書にて証明することだ」
「いやいや、脳が沸いてるんですか?
そんなの、『悪魔の証明』じゃあるまいし・・・って・・・」
「──────」
「まさか」
「悪魔を使ってでも、やりたまえ」
本気かよ。
あ。
この豚、本気の目だわ。
だから僕に振ってきたのか!
「・・・あと、仮の話ですけど。この任務を『失敗した』として」
「うん」
「僕の《任務達成率》は当然、下がりますよね?」
「下がるねぇ」
「査定で賞与に響くの、嫌なんですけど」
「達成率自体はどうしようもないが、その他の部分で色を付けるよ」
「プラマイゼロとか、ケチ臭いのはやめてもらいたいですね」
「来季の賞与は、必ず増額させよう」
「誰が?」
「私の責任及び、リスヴェン卿の承認で」
「・・・・・・」
へぇーー、あっそう?
意外と簡単に約束しやがったな。
そういうカードを即座に切ってくるとか、確かにこの任務は特殊だ。
難易度がどうこうではなく、『上』にとってメチャクチャ重要な案件らしい。
「とりあえず、行ってきますよ。
やりたくはないんですが、仕事なんで」
「そうかね。
では、気を付けて失敗してきたまえ、マーカス君」
「どうするかは、自分の目で確かめてから判断します」
「───賞与」
「自分で決めます」
”へへ!有難うごぜぇます、旦那!”、とかの台詞や揉み手は無しだ。
ここは敢えて、coolにキメておく。
スパイ映画と違ってカトリックの特務員は、時に上司への反抗も辞さない。
まあ、僕くらいのもんだろうけどな。
《渋い大人》を目指したい年頃なんだよ。
しばしばコンビを組む、おっさんの影響でさ。




