530話 知らない騎士団と疑惑 01
【知らない騎士団と疑惑】
人は生まれて、成長し。
社会へ出て『困難』を、『脅威』を知る。
そうなるであろう予兆は、学生時代において十分すぎるほどある。
進級する為、卒業する為、進学する為には《単位》が必要。
それを握り締めている悪役は、『教師』だ。
彼等と、どう上手く付き合うか。
どうやって黙らせるか。
手段は様々だが、目的は一つ───《単位》の取得。
真面目にやることも、裏をかくことも、ちゃんと意味がある。
将来に待ち構える『困難』への予習、模擬戦闘だと言えるだろう。
そして、それらを乗り越えて、ようやく一人前の社会人となったなら。
行く手に立ち塞がるのは、『上司』という奴だ。
『上司』は、『教師』以上に強大な力を持っている。
具体的には、給料に直結する評価だ。
敵に回せば即、支給額に響き。
少なくなれば、食事に困る。
税金が支払えず、督促が来る。
スマホが、ただのガラス板に成り果てる。
生活の術を丸ごと、人質に取られているようなものだ。
それを理解しているからこそ、『上司』はド汚い。
自分の立場を守る為なら、部下に何でも押し付ける。
幼少期から周囲の人間が『嫌な奴』ばかりだった、僕だが。
その僕をしても『上司』というものは、とても厄介だ。
向こうは文字通り、生殺与奪の権を握っている。
隙あらばタダで、もしくは安価にコキ使おうと企んでいる。
Fuxk!
鳥のフンでも浴びろ!
───少し痩せたみたいだ、とかシンは言ってたけど。
───目の前の『豚』は相変わらず、『御立派な豚』にしか見えやしない。
「ダイエットしたらどうです?」
「挨拶より先に、それかね?」
尊敬してやまない上司様が、見事にアヤシイ笑顔を返してきた。
豪速のデッドボールも、脂肪の分厚さで弾くか。
肉肉しいな、こいつ。
肉肉しい。
くたばれ!
「マーカス君。
今日までに及ぶ君の、特務員としての実績はね。
非常に───そう、非常に高く評価されているのだよ」
「我等の救いたる、大いなる主に?」
「いや、私に」
「礼を言うべきかもしれませんが、一旦『保留』にしときますね」
「そうかね」
ゴングが鳴って、ラウンド開始直後。
互いがジャブで牽制しあう。
「これは、正直に答えなくても構わないんだけども。
君には、《野心》があるかね?」
「どういう《野心》です?」
「例えば、何らかの組織体系において上位に位置したい、というような」
「特に無いですね。
あったら、そのデカい椅子に座ろうとして、暴れてる最中だと思いますけど」
「ふむ」
「ただ、《野心》は無くとも。人並みの《希望》はありますが」
「どんな《希望》かな?」
「賞与とか」
「人並みに?」
「人並みの、『人並み以上に貰いたい』という《希望》です」
「ほほう」
「ほほう、とか啼き声じゃなく、人間の言葉で話してもらえません?」
「善処しよう」
もつれ合いからの離れ際に繰り出した、僕の右フック。
豚のくせに、華麗なスウェーで躱しやがった。
クソ太々しい奴め!
「・・・それで、本題は?」
「今回の任務は、少々特殊なのだが」
「いつだって、そうでしょう」
「いつにも増して、だよ。君にしか任せられない仕事だ」
「いつも、そう言ってますよ」
「だから、いつにも増して、だよ」
「・・・・・・」
「マーカス君」
「何です?」
「今回の任務はね。
必ず、失敗してもらいたい」
・・・おおっと。
これは確かに、斬新なパターンだぞ。
つまり。
これまでになかったような『新しい嫌がらせ』ってコトか!




