527話 損は無し 02
「ばれすと・・・違った、ゔぁれすと」
「───おう」
ついにコイツ、俺の突っ込みを待たずに自己訂正しやがった。
その努力、『言い間違えない』って方向には持っていけないのかよ?
「それとも、あるゔぁれすと、のほうがいい?」
「ヴァレストで構わん。
そっちのほうがまだ、正解率に期待が持てる」
「ん。じゃあ、ゔぁれすと。
きょうは、大切なはなしがある」
いつものごとく、ウチのデザートをモリモリ平らげつつ、リーシェンが言う。
「聞きたくない。二、三年後にしてくれ」
「いま聞かないと、ぜったいこうかいする」
「──────何だよ、一体」
「ゔぁれすとが、《ミュンヘン代表者》に決定した」
「はあっ!?」
「つまり、一番えらい、ってことに」
「何でだよ!!勝手に決めるな!!」
「勝手じゃない。
有力派れんごうの会議で、せいしきに決まった」
「だから!それが勝手なんだよ!
そういう会議を、俺抜きでやるなよ!!」
「じんそくな決議のコツは、はんたいしゃを呼ばないこと」
「その通りだ!ムカつくくらいにな!!」
俺の怒りもどこ吹く風、とばかりにタバコを取り出す馬鹿蜘蛛。
ウチは喫煙所じゃねぇんだぞ!、とは口に出さず、同じ動作をとる俺。
「恐いかおしても、だめ。
連日、ゔぁれすとの《演説》がTVでながれてる」
「──────」
「おかげで、ミュンヘンに移住希望の悪魔が、さっとうちゅう。
ゔぁれすと以外が代表だと、かっこうがつかない」
「あの報道屋め、無断で撮りやがって」
「あれは、カルロゥの弟。
数々のじっせきがある、その道のプロ」
「どういった実績だ」
「きいて、びっくり。
《まちかど天気予報》の中継ちゅう、そのまま『違法とばく』の店に入った」
「え?」
「身構える店のボスに、マイクをむけて。
”明日は雨ですが、今はどんなお気持ちですか?”、ってきいた」
「『斜め上』って言葉が、転移陣で逃げ出す勢いだぞ」
あいつ、マジもんの《勇者》か!
不覚にも、ウチの一派に欲しい、と思っちまった!
絶対に、大問題が発生すること間違いなしだが。
「とにかく、八位にもどったなら、《代表》はとうぜん。
ゔぁれすとが上がったせいで、わたしのすうじが1つ、下がったけど」
「今、何位だ?」
「二十六位が、二十七位に」
「その程度は誤差だ、誤差。
それにお前は、位階以上に強いだろ。
実際のところ、十位台に食い込めるくらいじゃないか?」
「ほめられた!」
「一応は、な」
「じゃあ、ごちそうさま」
「待て、帰るな」
吸い殻の火を消したリーシェンを、このままで逃しはしない。
「《代表者》って、何をやればいいんだよ?
これまでは、誰がやってた?」
「やることはもう、いろいろ。山ほどある」
「──────」
「いままでは、有力派れんごうが、ぶんたんしてやってた」
「───俺には、無理だぞ。
そういうのに向いてないタイプだ、分かるだろ?」
「とてもよく、わかる。
だから、ないすアイデアで、助けてあげてもいい」
あ。
お前、さっき帰りかけたのはフェイクだな?
ここからが『本命』って事か。




