524話 1つだけ、くれてやろう 01
【1つだけ、くれてやろう】
荘厳な広間に。
黒のローブを着用した、128名が整列していた。
誰も彼もが一様に項垂れ、表情は暗い。
つい先日まで栄華を誇り、肩で風切って歩いていた者達。
今はその肩から印章は剥ぎ取られ、半数ほどは怪我さえしていて。
傷口から溢れる鮮血は止まることなく、再生もしない。
血溜まりにローブの裾が濡れた隣の者も、抗議の声はおろか、舌打ちも皆無。
巨大な石に潰された如く、身動き一つせずに押し黙っている。
───ここへ喚ばれる事こそ最高の誉とされる王城、『謁見の間』。
───息遣いの音は殺せども、彼等は自らの鼓動に苛まれ、歯噛みしていた。
跪く一団の正面に立つのは、4名。
そこから三段高い場所にあるのが、至高の玉座。
虹色の髪を纏めた堕天使を傍らに、《地獄の王》は告げる。
「お前達の不満は、手に取るように分かるぞ」
理性的で公正であるが故、良くも悪くも感情に乏しい声。
「『どうして、我々だけが罰せられるのか』。
『《四家》に責が及ばぬのは、結局《血の繋がり》のお陰か』。
まあ、その《四家》に捕縛されたのだから、余計にそう思うであろうな」
《王》は琥珀の原石をそのまま使った肘掛けを、人差し指で軽く叩きつつ。
眼下に並ぶ4名の背に一瞥をくれて、続ける。
「首都の危機に際して、何の手段も講じなかった。
国民の信頼を大きく裏切った。
それは、《四家》も同じ事。
───しかし、だ。
───お前達には、それ以前にも『罪』がある」
組んでいた脚を解き、《王》は笑った。
決して優しくも友好的でもない表情で、薄く微笑んだ。
「実のところ、余は地獄の支配者としての位置に固執しておらぬ。
競い合い、力ずくで上にゆくは、悪魔の本質だ。
向上心、大いに結構。
実力をもって余を追い落とすと言うなら、甘んじて受ける覚悟もある。
ただ、その代わり。
皆が安心して暮らせる政治を行うのが、最低条件なのだが。
───それを、お前達は。
国民から、不当に利益を奪ったな?
選挙も行わず議員となって、権力を握り。
国民の資産を勝手に、お前達だけで分配して私腹を肥やしたな?
その『罪』は、到底赦し難い。
紛う事無く、極刑に値する。
お前達と《四家》の差は、そこだ」
それを聞いた瞬間、何名かの体が、びくり、と跳ねたが。
すぐにそのままの姿勢で、石像のように固まった。
「ああ、自決などしてくれるな。
責任を取るでもない、我が身可愛さ故の《逃げ》など、見たくもないのだ。
それに、安心するがいい。
極刑とは言うものの、命までは取らぬ。
余は、お前達の為に特別な刑を用意したぞ。
慎重に慎重を重ねて『素晴らしい魔法』を、新たに創り上げたのだよ」
《王》の言葉に、居並ぶ《四家》さえも身を震わせ。
元・議員達の全員は、”むしろ殺してくれ”、と願った。
新しい魔法。
特別な、極刑に用いることを前提にして開発された魔法。
それで『命を取らぬ』とはまさに、永遠の、最悪級の拷問だ。
「さて。
こうして顔を見るのも、これが最後である故。
刑の執行にあたり、その内容を詳しく説明しておかねばなるまい」
抑え切れぬ喜色を含んだ声が、広間に響き渡る。
はっきりと本当の笑顔を浮かべた《王》が、僅かに身を乗り出して。
「諸君は───《異世界転生》というものを知っているかね?」




