517話 It's time to pay 07
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地獄においての、地獄のような戦いが終わった。
ようやく全ての《蜂》が倒され。
奴等を送り込んでいた、奇妙な『渦』も消え去った。
後に広がるは、瓦礫の山。
まともな姿で残ってる建物など、一つもありゃしない。
それでも、復興自体にさほどの時間は掛からないだろう。
人間と違い、魔法が使える悪魔だ。
その悪魔達が数多く住む、地獄の首都だ。
おそらく2日も経たず、何もかもが元通りに修復される。
最低でも今夜寝る場所くらいは、速攻でどうにかする筈。
つまり。
《蜂共》を殲滅した参戦者は、もう用が無い。
さっさと帰宅してひと風呂浴びても、後ろ指を指されることは無いのだが。
───まあそれは、他の連中の話。
───俺としてはちょっと、このまま立ち去る訳にはいかなかった。
見れば、中央部には大勢が集まっている。
姉貴が陛下と何か、話をしている。
陛下。
そう、陛下が問題なのだ。
大戦後、すぐに療養に入られて幾千年。
非常事態にあたって強引に出てこられたのだろうが。
おそらくは、このまま復帰なさる。
そして、そういった事も含めて、この場で何らかの御言葉を賜る筈。
───その前に、言わなければならない。
───言い切ってしまわねばならないのだ。
発言内容より、演説すること自体に緊張するけどな。
とにかく、やるしかないか、こうなったら。
───首都の端にまで届くよう、『広域拡声』魔法を3倍掛けして。
「ようやく《蜂》が倒されたばかりで、ゴタついてる状況だが。
こちらは、ヴァレスト・ディル・ブランフォールだ。
まず最初に。
市民の皆様には、大音声にてお騒がせすることを、お詫びする。
これから話す内容は、皆様には全く関係が無い。
ごく私的な『安否確認』と『伝達』だから、気にしないでくれ」
すす、と静かに距離を取るリーシェン。
本能的に《危険》を察知しやがったな?
多分、ジト目で俺を見ているんだろうけども。
蜘蛛の単眼は表情が読みにくいんだよ。
「───よう、評議会の議員共。
元気でやってるか?
怪我しちゃいねぇか?
まあ、してないよな?
精々、プライベートシェルターに入る時、足の小指をぶつけたくらいか?
それとも、どっかのビーチでトロピカルなカクテルでも飲んでんのか?
昔から、『偉そうにしてる奴は偉くない』って言うけどよ。
ありゃ、本当だよな?
こんな首都壊滅の危機に、『偉そうな奴』は一匹も見かけなかったぜ?
おかしいな。
見落としたか?
もしかして、間違えて踏み潰しちまったか?
来てない訳は、ないよなぁ。
偉くて金持ちで、お強い議員様がよぉ。
みんな必死に戦ってる時に、隠れたり遊んだりはねぇよなぁ?
評議会に属する者は、国民を守る義務があるらしいんだが?
お前らだけは、例外か?
誰も知らない内に、そういう法律でもでっち上げたか?」
これは当然ながら、俺自身の怒りであり。
同時に、陛下に言わせてはならない事でもある。
絶対の施政者が臣下に忠誠を問い正せば、それは『終わり』を意味する。
地獄の、悪魔の統制が、根底から崩れてしまう。
陛下の御立場では、軽々しく『馬鹿、阿呆』とも叫べない。
それをやっていいのは、一介の悪魔だけ。
元から連中と揉めてる、この俺くらいのものだろう。
「毎年、あーだこーだ理由を付けて税の種類を増やして。
月の徴収点数も、どんどん上げていって。
みんなの暮らしは豊かにならないのに、お前らはどうだ?
議員報酬だけの筈が、普段から豪遊してるよなぁ?
隠すどころか、見せつけるようによぉ。
高いもの食って、高いもの飲んでやがるが。
国民の危機には指一本動かせない、ってか?
お前らはな、完全に《敵》だよ。
悪魔にとって、天使どころじゃあない《敵》なんだよ。
だって、そうだろう?
主義主張さえ置いとけば、天使とは手を繋ぐ事だって可能だろうがよ。
お前ら議員とは、どこまでいっても分かり合えねぇよ。
同族から掠め取り、義務も放棄して笑ってやがる《外道》だ。
外道に『悪魔』を名乗らせたくねぇんだよ。
とっとと自分で首括って、おっ死んでくれよ。
ここまで煽っても文句を言いに来れない、勇気溢れる議員様達だ。
どうせまた後で、ネチネチ嫌がらせのオンパレードだろ?
いいぜ。
いつも通り、お前らがくたばるまで相手してやるぜ。
───あと、《四家》な。
『滅王』。
『欲暴主』。
『凶禍』。
『屍虐帝』。
テメエらもだよ。
陛下が出陣なさってるのに、何やってんだ?
”陛下の血に連なる云々”は、ホラ話か?
偉くて立派な方々にゃ、下賤な《蜂》は触れない、ってか?
立派なお城で昼寝中だったなら、起こして悪かったな。
ついでに言っとくが。
俺は今後、テメエらに敬称は付けねぇよ。
税金免除の『動かない飾り物』に頭を下げるほど、イカレちゃいねぇんだよ。
高貴ってのは、血じゃなくて生き様だ。
眠いなら一生、寝ててくれや。
幸せな夢が見れるといいな。
───以上!!
迷惑で恥知らずで、役立たずのクソ共ッ!!」
しいん、と見事なまでの静寂。
よし!
何とか全部ブチ撒けて、スカッとしたぜ!
傍迷惑だったろうが、日頃から溜め込んでいた鬱憤だ。
大声で叫んだ分、気が晴れた。
まあ、どうせ相手は首都には居ないけどな。
何処か遠くからこちらを見て、聞いているだけ。
聴衆からの拍手や喝采も、最初から期待していない。
下手にこの場の勢いで同調した奴は、確実に巻き込まれる。
そんなのは、こっちも望んでないのさ。
俺は薄汚い『自称:権力者』との争いに、慣れまくってる。
うちの連中も、そういうゴタゴタが大歓迎な奴等だ。
正直、責任を取る事まで考えたら、味方は最小限のほうがいい。
俺は、やりたいようにやるだけだ。
不相応に担ぎ上げられるとか、勘弁願いたいしな。
「───余は、セルダニオン・エクゼム・グレンキウトである」
重たくも朗々たる、魔王陛下の声が響き渡り。
俺は。
いや、全ての悪魔が即座に跪き、頭を垂れた。
「永きに渡って玉座を空けたこと、皆に詫びよう。
そして、我が力及ばず、首都に甚大な被害を出した事、申し訳なく思う」
ほらみろ、腐れ議員に《四家》!
口上の最初からしてもう、『心』を『慈愛』を感じるんだよ!
これが本当の支配者、施政者ってもんなんだよ!
「久方ぶりに皆の前に出た、余であるからして。
そして皆のほうにもまた、同じように言い尽くせぬ言葉があるだろう。
───如かれど、それを交える機会は別に設けることとしよう。
今はまず、差し当たっての宣言により。
此の度の被害に関する対応としたい、と思う」
ふむ。
やはり陛下だ。
何より先に、復興策を打ち出されるか。
「一つ───現刻をもって、評議会を解散とし。
それに付属する全権限は、議会の再開まで一時的に余の預かりとする!」
マ、マジでッ!?
「二つ───現刻、いや、5分前をもって。
《四家》への不敬罪を全て、『廃止』とする!」
はあッ!?
いや、そこまでしていただかなくても!
俺だけの事なんで!
そんな細やかな御配情は!
「三つ───現刻をもって。
正式に、アルヴァレスト・ディル・ブランフォールの八位復帰を承認する!」
あ・・・ああ。
ええと、その、陛下───
バレてたのか、やっぱり!




