516話 It's time to pay 06
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何にせよ、姉貴とレンダリア様が来てくれたのは助かる。
文字通り、大援軍。
『個』にして『軍』に匹敵するレベルだ。
これで戦局が大きく変わるだろう。
あと。
《正真正銘、普通の人間》が、手刀で《蜂》を斬ってるのを目にしたが。
うん。
見なかった事にしておこう。
きっと夢さ、夢に違いない。
姉貴達に加え、他の増援も次々に登場だ。
知った顔が沢山いるぞ。
おっ、プレイギルも来てるな。
巨大な『薬包天秤』は、俺の親友プレイギルの『真体』。
だが、天秤の片方には、豪勢な椅子が置かれ。
腰掛けているのは、タキシードを着た美青年。
金髪オールバックの、冷ややかな笑みを浮かべた貴公子だ。
プレイギル、お前!!
積年の仇敵と組んでんのか!?
───いや。
───この状況では、それも『あり』かもな。
あの『超絶美形』様は、ウィルだ。
病原体の帝王にして、極度にサディスティックな性格でも有名。
マギルの購読雑誌において年間人気ランキング、不動の一位らしい。
本来、医術を司るプレイギルとは、最悪の関係なんだけどな。
だが。
薬は毒であるとも、毒とて薬だとも言う。
互いがその能力を増幅出来るという点では、好相性なのか。
今は何だか滅茶苦茶に魔力を渡されて、絶好調な状態ではあるんだが。
念の為、俺も誰かと組んで動いたほうがいいか?
ええと。
周囲を見渡せば。
そう遠くない位置。
半壊した建物の陰から、少しも巨体を隠せていない『蜘蛛』が。
じっと、こちらを窺ってるのを見付けた。
見付けてしまった。
「ばれすとが、なかまになりたそうにしてる」
「ヴァレストだ。
あと、逆じゃないのか?その様子だと」
まあ───いいか、この際。
まったく知らない奴との連携だと、上手くいかないだろうし。
初顔合わせよりは、まだこいつのほうがマシかもな。
「リーシェン。
ここは一つ、タッグを組まないか?」
「よしきた!
チーム名は、『すぱごん』!」
「・・・スパイダー&ドラゴンなら、スパドラだろ、普通」
「『すぱごーん』!!」
「何で急に伸ばすんだよ」
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「トップロープからのーー!」
素早い動作でビルの壁面を駆け上がる、巨大蜘蛛。
「しゅーてぃんぐすたー、ぷれーーす!!」
後方回転しながらの『落下式体当たり』が、《蜂》に炸裂した。
「くたばれ、この!!」
すかさず、俺がその首元にかぶり付き、胴体から頭部を捻り切る。
「リーシェン選手、なおもとまらないーー!!」
自分で実況しながら跳躍して、別の《蜂》に向かってゆく14本脚。
「すぱいだー・すくりゅーー!!」
迎撃で伸ばされた触腕を空中で押さえ込み、そのまま体を一回転。
バキリ、と棘付きのが何本か折れ砕け、緑色の体液が飛散して。
「くたばれ、この!!」
痙攣し、晒された腹部に牙を立て、食い破る俺。
「・・・ゔぁれすと、技が地味。
もっと魅せるやつを使わないと、かんきゃくにウケない」
「俺は、堅実派なんだよ!」
「わたしとゆう、美少女レスラーをさんこうにするべき」
「いや、どう見ても『蜘蛛』だろうが!
美少女要素なんて、どこにも見当たらん!」
「むしろ、可愛げしかない。
のうさつ!リングの、生あしマーメイド!」
「蜘蛛だっての」
こいつ、普段と同じでおかしな事ばかり言ってやがるが。
戦闘能力は、かなりのものだ。
ドラゴン並の大きさを誇りながら、えげつない程に素早い。
進行方向が瞬時に切り替えられて、次のアクションに目が追いつかない。
跳躍の高さにも唸らされる。
流石は、捕食者たる『蜘蛛』。
昆虫っぽい《蜂》からすれば、まさに天敵なのかもな。
───その上。
───今の俺達は更に、『援護射撃』のオマケ付きだ。
報道関係者の腕章を嵌めた、半人間形態の『告げる大鴉』。
そいつが、崩れた建築物から鉄骨を引き抜いては飛び立ち。
超高速ダイブ中にそれをブン投げるという、ピンポイント爆撃を敢行している。
結構重そうな撮影機材、片手に。
「お前なぁ・・・撮るか戦うか、どっちかにしろよ。
マジで危ないぞ?」
「いえいえ、御心配なく!
仕事と趣味が相まって、チョー気持ちイイんでッ!!」
あー。
駄目だな、こいつ。
満面の笑みを浮かべて、目が完全にイってやがる。
わりとイケメンなのに、台無しかよ。




