511話 It's time to pay 01
【It's time to pay】
俺は決して、『整理整頓ができない男』じゃあない。
脱いだスーツや外したネクタイは、必ずハンガーに掛ける。
シャツはすぐさま、クリーニング店へ出す。
私室のテーブルや床に物が散乱しているなど、あり得ない。
本は本棚へ、雑誌はマガジンラックへと戻す。
飲み終えたコーヒーカップも置きっ放しにせず、キッチンへ持って行く。
そりゃまあ、自分で洗うまではしないのだが。
それにしたって、身だしなみと同じくらい『片付け』には気を使っている。
いつ誰を部屋に招き入れようとも、恥ずかしくないレベルだと自負している。
───そういう事を、一切せず。
───散らかしに散らかしているのは、『財宝部屋』のほうだ。
魔法で拡張した、別空間。
ちょっと気に入った物は、とりあえずそこへ放り込むのが常。
当然それらは重なり、積み上がり。
古い物は下へと埋もれてしまうが、それを掘り起こす事など滅多にない。
ないから、そういうスタイルで一向に困らない。
ただし。
レアな『魔法道具』だけは、特別扱いだ。
選別して、他とは切り離した空間に整然と並べてある。
それは大戦後、評議会に飼われた連中とバチバチにやってた頃の名残。
何かあればすぐさま《全力戦闘》する為の、最低限の準備。
当時と違って最近は、そこまでの大事なんて無かったんだが。
まさか、それらの殆どを持ち出す羽目になるとは、思ってもみなかったぜ。
───転移陣の光が収まり、景色が変わった事を確認し。
───即座に『真体』、ドラゴン形態へと体を戻す。
「お前らは、A級以下を狙え。
Sとか『デカくてヤバそうなの』には、手を出すな」
ランツェ、ギルバート、キースはアジトで留守番だ。
天使がここへ来るのは流石にマズい。
そして、実戦経験の無い奴じゃあ生き残れない。
あと、マルシェルは猫。
論外。
働かせたら、虐待認定される。
ここに居るのは、一派の立ち上げ当時からの『ならず者達』。
加えて、《智将》の二名。
どいつもこいつも、こんな状況で嬉しそうに笑っている。
というか、本気で舌舐めずりしてやがる。
マギルの『支援魔法』が連続で重ね掛けされ。
その効果のせいか、いよいよもって連中は凶悪な顔付きだ。
あんまり他所様には見せたくないが、今はそうも言ってられない。
「絶対に単独で突出するな!
必ず連携して、マギルの指示に従って動け!
渡した『魔法道具』は全部、使い潰して構わん!
いいか?
死んでる暇なんざ、少しもありゃしねぇぞ?
───行けッ!!」
地獄における最大都市、ジャスパルガン。
もはや阿鼻叫喚の地と化している、魔族の首都上空から。
俺達は、全速力で降下した。




