506話 名も無き石が語るだろう 02
「───まあ、とにかくだな。
これからは、悪魔を食べるのは止めておけ」
「いやだ」
不貞腐れた野良犬に似た目で、少年が即答する。
「食べれる時に、食べれるだけ、食べる」
「正論ではあるな。『人間』であれば」
「・・・・・・」
「だが、お前のやっている事はおおよそ、『人間』の所業ではなかろう」
「どうして」
「簡単な事だ。
どれほど腹が減ろうと『人間』ならば、自らを食べたりはすまいよ」
「・・・・・・」
「どれ。その腕、治してやろうぞ」
「都合を合わせてくれる他者は、いないんだろう?」
「ははは。
だが、たまたま都合が合うこともあるさ」
長い沈黙の後。
躊躇いながらも差し出される、左腕。
肘から先が全て骨だけのそれが、瞬くうちに元に戻されて。
少年はすぐさま、懐から取り出した金属片をそこに突き立てようとする。
「ええい、よさぬか馬鹿者!
せっかく治してやったのに、早速それか!?
空腹ならば、これをくれてやる!」
慌てて放った食物を、異様な素早さで掴む少年。
齧り付き、飲み込んでから呟く。
「・・・何、これ?
血が出ないし・・・骨も入ってない」
「そんなものが、パンにあってたまるか!
しかし、食べ易くて美味かろう?」
「・・・うん」
「これからは、自分を食べてはいかんぞ?」
「わかった。自分は、食べない。
でも、悪魔は食べる」
「困った奴だな」
水を満たした杯を置いてやれば。
少年はそれを持ち上げず、前のめりで口を付けて中身を啜る。
パンを持っているのは、右手だ。
左手が空いているにも関わらず、使おうとはしない。
それが動くという事も、とっくに忘れてしまった獣。
『人間』によく似た、『別の何か』。
「そら、落ち着いて食べるといい。誰も取りはせぬ」
追加で投げたパンを拾い上げ、少年は嬉しそうに顔を歪めた。
ひうう。
ひるるう。
《自身を喰らった筈》の少年。
その唇から漏れた言葉は、やはり。
どう聞けども、『人間』の言語ではなかった───




