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504話 Remote Bomb 04



「さて。

それじゃあ、《本題》のほうもサックリと解決しようか」



スマートフォンで時刻を確認し、カフェオレの残りを一気に(あお)る。

早いところ机に戻り、積み上がった書類を片付けてしまいたい。

急がなければ、そろそろ昼になっちまうぞ。



「《変態吸血鬼》が《狼の坊や》に、純愛を分からせる。

それをお前の、『そういう薬』で何とかしない理由は。

洗脳なんかじゃなく自然に、純粋(ピュア)にいきたい、って事だよな?」


「まあ、うん」


「すると、今のところは『噛んで支配してもいない』、か。

聞きしに勝る、イカレ腐った女らしいが。

相手が子供の場合は、どうとでもなりそうだ。


本当に子供なら、だけどな」


「どうゆう意味?」


「俺が言う『子供』ってのには、条件がある。

体の大きさとか、『変態趣味に適合する年齢』だとか、そういうのは関係無い。


嫌な事や困難があっても、耐え忍ぶ。

口を引き結んで、ただ頑張り続ける。

自分がそうやって正しく生きていれば、やがて周囲(まわり)が変わる。

きっといつか、現状も正される筈だ。


そういう思考から抜けられない者を俺は、『子供』と定義している」


「・・・・・・」


「”自分は未成年だから、誰か殺しても罪は軽い”。

なんて事を考えるようなのは、『子供』として扱わない。


どうだ、リーシェン。

《狼の坊や》は、『子供』か?」


「《変態》のはなしを聞いたかんじ、『子供』だとおもう。

あと、わたしは変態じゃない」



おっと。

先手を打ってきたか。



「そうだな、お前は変態とは違うな。

好んで変態共を釣り上げる、職業的なプロフェッショナル。

俺の知る限り、最上位の《変態専門誘惑悪魔》だよ」


「やった、ほめられた!」


「いや。単に事実を述べただけで、褒めるつもりは毛頭無い。

どんなに頼まれても無理だ」


「ちっ」


「まあ、そうしたら《坊や》が(まさ)しく『子供』だとして。

一番簡単なのは、『分不相応な権限を与えて』『自由意志に任せてやる』。

これだろうな」


「・・・ん・・・具体的には?」


「《婿頭首》じゃなく、《本物の頭首》にする」


「え」


「夕食後とか、《坊や》とのんびり(くつろ)いでる時にな。

分家衆の筆頭がズカズカやって来て、《変態女》にこう言うのさ。


”本当に、心の底から彼を愛しているのなら、ちゃんと扱うべきだ”。

”あなたは()えて『副頭首』から降りて、一族の命運を彼に委ねてはどうか”。

”我々の『頭首』がただの愛玩物ではない、と示してもらいたいものですよ”。


なんてな」


「それは・・・ほんきでやるの?」


「ああ。本気でやるから、意味があるんだよ。

そして、次の日から《変態女》は《坊や》の前に現れなくなる。

すると、気付くわけだ。


どんなに今の境遇が嫌でも、守ってくれていたのは誰なのか。

誰によって、自分の安全が保証されていたのか。


そこに畳み掛けるように、分家筆頭が囁くんだ。


”今日から貴方こそが、真の頭首です”。

”あの女、処刑してしまいましょう”。

”それか、領地から追放だ”。

”これより我等は、この地を平定する為、戦争を起こすのです”。

”あれはもはや、用済み”。

”どうぞ、奴の処遇をお命じください”」


「・・・戦争・・・」


「《坊や》は、パニックになるだろうな。


この筆頭、明らかに信用できる味方ではない。

自分のことをいいように使う気だ。

それこそ、用が済めばゴミのように捨てられる。


そう分かるからこそ、『子供』は判断を誤る。

安易で甘い方向に、舵を切ってしまう。


”処刑だとか追放だとか、そんな事は望まないよ!”。


命を扱う責任から逃れたくてそんな言葉が出てくるなら、半分かたは成功だ。


《変態女》は一応、処刑を(まぬが)れるが。

もはや権力が無い。

《坊や》は、自分の後ろ盾だった筈の彼女を守る為。

『自分の権力』を使わなければならない。

実質の権力者である分家筆頭と、水面下でやり合いながら。

唯一の味方である彼女を、自分の考えと判断で何とか庇護しなくてはならない」



『自由意志』という名の、思考誘導。


洗脳よりはマシにしても、まともな方法ではない。

だが、《変態》の《変態的オーダー》に(こた)えるには、これしかない。



「ほんとうに、戦争するの?」


「ああ。

言っただろ、本気でやるからこそ、追い込める」


「・・・・・・」


「勿論、その裏では一族に裏切られないよう、抑えが効いているのが前提だぞ?


もはや副頭首ではなく、ただの一兵卒になった《可哀想な変態》が。

戦争に駆り出されて毎回、ぐったりして戻ってくるとか。

どんどん目の光が消えてゆくとか。

そういう演出があれば、一層効果的だな」


「・・・えぐっ」


「そりゃあ、エグいさ。

しかし、その分だけ《坊や》の視界は狭まる。

嫌で仕方なかった《変態吸血鬼》に対して、真剣に向き合うようになって。

彼女を助けなければ、と『責任感のようなもの』が生まれて。


それが『純愛』に昇華されるかは、《変態様》の魅力次第だけどな」



何をもって『純愛』かは、当事者それぞれ。

しかし、”純愛だ”と思い込む為の一番の要素は、『困難』だろう。

酷い状況で、味方も無しで。

苦しければ苦しいほど錯覚して、(すが)り付くしかなくなる。



「ちなみに、カルロゥの恋愛けいけんは、どのくらい?」


「さあなぁ。

俺に、そういう相手はいない。

『協力者達』がいるだけで」


「すごく、わるいやつだ」


「向こうにそう思われなきゃいいだけの話さ」



───時刻は、11:21。


───いい加減、休憩が長くなっちまった。



「ま、簡単に言えば、そういう筋書きだが。

お前としてはこれ、どうなんだ?」


「どう、って」


「この台本を最後まで演じた場合。

関係者は全て『舞台』から消え去る事になるが───構わないか?」


「・・・カルロゥ、わかっててきいてる?」


「一応、最終確認だよ」


「そう」



チビチビと、大事そうにカップの中身を飲む姿。

それから、さらりと言葉が続けられた。



「わたしはべつに、問題ない」


「───だろうな」



『例え話』の中で、こいつは言った。


”友達に頼んで、凄い薬を売ってもらった”、と。



《友達》というのはあくまで、あちら側の主観に過ぎない。

この馬鹿蜘蛛は、『薬』に関して強い(こだわ)りがある。


絶対に、商品として売らない。

値段を付けないのだ。


《顔だけ知っている》というレベルでさえ、対価を要求することがない。

渡すと決めたなら、相手が嫌がろうとも無料(タダ)で押し付ける。


つまり、『売った』のは───その程度の関係、ってことだ。


そこを踏まえれば、この件の難易度は格段に下がる。

《本当のお友達》なら、俺も別の解答を(ひね)り出さねばならなかった。



「要は、『愛に生き、愛に死ね』ってことさ」


「直球しょうぶ?」


「そもそも変態馬鹿にゃ、直球しか理解出来ないだろ?

んじゃ、御馳走さん。俺は戻るぞ」


「うん。

ありがとう、カルロゥ。

依頼者には、さいごの部分以外、つたえておく」


「おう」



もう、アレだ。

詳細まで伝えるのが面倒なら、一言(ひとこと)

『死ね』だけでもいいぞ?


ハンガリーは、呆れる程にきな臭い土地柄だ。

お隣のスロバキアの現状も考えれば、目に見えている以上に不安定で危うい。


あそこの吸血鬼達は、おそらく。

最終的には二家か三家しか残らない。

他は全て、滅亡する。


どうせ元から、マイネスタンが残れる目は皆無だ。


それならば、俺が作った台本でどうなっても心は傷まない。

早いか遅いかだけの違いだ。



廊下へ出て早足で進み、事務所のドアを開け。

中に入った時、皆が一斉に俺の顔を見た。


おい、また『それ』か。

『ハラハラ』ってやつか。


お前らが期待してるような事は何もねぇよ、阿呆。

いいから、頭と手を動かせってんだ!



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