503話 Remote Bomb 03
「『カルロゥ』は、結婚あいてがいない。
『ろりこん』が噂になりすぎて、お見合いもぜんぶ、ことわられた」
「──────」
「でもある日、ふてくされて散歩してたら、好みのコをみつけた。
それが、『わたし』」
「──────」
「種族はちがうけど、ぜったい逃したくない、と。
思い余った『カルロゥ』は、『わたし』の両親にお金をわたして。
うちに連れ帰って、監禁。
めでたく結婚した」
「くそっ───思い余りやがって、俺!」
「『カルロゥ』は、どうしても子供が複数ほしい」
「なんで複数だ」
「まわりからそう、強くゆわれてる。
『カルロゥ』みたいなのが生まれてしまった時の、ほけん」
「マジで定評あるんだな、俺の『ロリコン』は」
「よそとの争いにそなえて、こうけいしゃは絶対、ひつよう。
でも、それよりまず、『ろりこん』を優先したい。
そんな『カルロゥ』は、『わたし』に薬を飲ませた」
「薬?」
「友達にたのんで、『わたし』の成長がとまる、すごい薬を売ってもらった」
「──────」
屋内に居ながらにして、熱中症のような目眩に襲われる。
「世の中にゃ、とんでもなく悪辣で性根の曲がった《薬売り》がいるんだな」
「かしこくて、可愛い蜘蛛だとおもう」
「──────」
「かしこくて、可愛い蜘蛛だとおもう」
二度も言うな。
そこは隠す気が無いのかよ。
両手で紙カップを持って少しずつ飲む、《あざとい仕草》の馬鹿。
お前、定期的に《そういうの》をやるけどな。
ロリコンチェックか?
俺には全く意味が無いぞ?
「・・・そして。ここからが、本題」
「おう、やっとか」
「『カルロゥ』は、むりやり結婚したけど。
本気で愛してる。
それを、『わたし』につたえたい。
真実の愛、純愛だと、わかってほしい。
・・・これ、できる?」
「──────」
拉致っておいて、何が純愛だ。
変態な上に我儘か。
どんだけ腐ってんだ、仮の『俺』は。
カフェオレを飲み下して、溜息。
普段、甘いものを飲み慣れていない分、喉の奥にベタついた違和感が残る。
どうにもスッキリしないな。
気持ち悪い。
特に、この『もしも話』が。
「───リーシェン」
「なに」
「もう面倒だから、《吸血鬼》と《獣族》でいいだろ」
「・・・・・・」
「おい、顔に『補正』が掛かってないぞ」
「・・・・・・」
「こんなのは別に、大した『謎々』じゃあない。
難易度10段階で表すなら、ゼロってところだ」
「1ですら、ないの?」
「ねぇよ。
お前、プライバシーの保護とか宣いながら、失言が多過ぎだ。
本当は、『カルロゥはロリコン』って言いたかっただけじゃないのか?」
「・・・・・・」
おい。
目を逸らしやがったな、こいつ!
「一応、解説してやろう。
まず、散歩していて見付けたのが、《種族が違う》。
これは、絶対に言ってはならなかった。
たとえ聞かれても、上手くはぐらかすべきだった。
せっかく『変質者』の素性を隠しているのに、台無しだ。
異なる種族と結婚が成立し、嫌々でも周囲がそれを認めるなら。
その時点で、『変質者』が天使でも人間でもない、と確定する」
「う」
「おまけに、《成長を止める薬》を《買って飲ませた》。
つまり、『変質者』は、魔法でそれを実現出来ない。
悪魔じゃあない、ってこった。
魔法自体が使えないか、『状態変化の魔法』が不得意な種族ということだ。
しかも、その薬の出処が、《賢くて可愛い蜘蛛》ときやがる。
薬で成長を止める、即ち、状態固定させるなら。
作製者は最低でも、対象となる種族を知ってなきゃならない。
そして、お前は。
『被害者』がエルフだった場合、絶対にそんな薬を作らない。
渡す筈がない。
『被害者』がエルフでないなら、『変質者』も当然、エルフの線が消える。
もう可能性として残ってるのは、伝来の妖族だけだな」
「・・・う・・・」
「───で、《他所との争いに備えて、後継者が必要》?
こんな斜陽の御時世に、争いか。
伝来の妖族は皆、隠れて小さくなって暮らしてるってのに。
そんな事を今でもやってるのは、《吸血鬼》くらいのモンだろ。
じゃあ後は、《変質者で有名な奴》にでも金で身内を売る種族は何か?
それは、吸血鬼と元から縁の深い連中だ。
その一門に入る事を、栄誉だと考える奴等だ。
そんなのは、《獣族》───虎か、狼だろうよ」
「・・・・・・」
「まあ、最大のミスはやっぱり、《種族が違う》。
これを口にしたせいで、後はもうドミノ倒しだったぜ?」
「・・・・・・」
「あと一つ、付け加えておくが。
俺は───その《吸血鬼》のフルネームも分かってるぞ」
「いくら何でもそれは、ない」
「そうか?
哀れな獣は《狼》で、場所はハンガリーの西部だよな?」
「・・・ごめん」
ようやく観念した蜘蛛が、両手を挙げる。
「もじゃもじゃ達を引き合いに出したこと、あやまる」
「おう。こう見えて俺は、繊細でね。
親しき仲にも、礼儀あり。
突付いちゃならない部分ってのも、あるわけだ」
「・・・うん」
「NO.2という立場上、一派に何かあった時の責任は重い。
”対処出来ません”、”情報がありません”じゃあ、済まされないからな。
その為に独自のネットワークを維持し、アップデートするのも職務の範疇だ。
俺より上で、俺より安く使える奴が見付かったら、いつでも解雇してくれ。
退職金は要らない。
というか。
その時はちゃんと、俺を始末しておくべきだな」
「・・・デメリットと、つりあわない」
「そう思ってもらえる間はまあ、安泰か」
ニヤリ、と笑ってみせておく。
はは。
やっぱりさ、これくらいの緊張感がなきゃあな。
以前ジルモークに、”よく更生できましたね”なんて言われたが。
そりゃあ、まったくの誤解だ。
子供時代の夢は、叶ったのさ。
俺のここでの仕事は。
『犯罪組織の潜入捜査』みたいなモンだよ。




