499話 甘くない『おやつ』 05
手詰まりだった。
何度も何度も、主人公は死んでゆく。
自分の死後、マリナが生き続ける事を願い、信じながら。
何度も何度も、命を捧げて倒れる選択をする。
俺は。
俺というプレイヤーは、彼に教えられない。
『マリナは、5回死ぬ』。
それを主人公に伝える方法が無い。
死んだ後の出来事を、真実を、彼は知らぬまま『生』を終えてしまう。
どうにもならない。
───それでも俺は、諦めずプレイした。
まだやっていない事が無いか?
まだ行っていない場所は無いか?
これまでのプレイを振り返り、取った行動を思い出しながら。
新聞広告の裏面、ありったけの『もしかしたら』を書き出して。
それを手当り次第に、試しまくった。
やがて、そうしている内に。
作製者が組み込んだ、何らかの条件を満たしたのだろう。
───森の中。
───これまでずっと入れなかった小屋の扉が、開いていることに気付く。
中には、誰も居ない。
何も置かれていない。
だが、これは久し振りの《変化》。
物語の終末に向けて、一歩進むことができた証明だった。
限界近い疲労感を、買ってきたエナジードリンクで押さえ込み。
俺はここぞとばかり、『追い込み体勢』に突入。
片手で食べられよう、マギルがサンドイッチを持ってきてくれた。
有り難い。
有り難いのだが。
TV画面の前、血走った目の俺に向けた、妙に得意気な顔が。
正直かなり、カチンときた。
───更に10周ほどプレイを繰り返したところで。
───『小屋』の中に、初見のキャラクターが登場。
悪魔アンバイエルのライバルを自称する、そいつが言った。
「良い事を教えてやろう」
「お前が気付きもしていない、大事な大事な、世界の秘密さ」
そしてようやく、主人公は『知った』のだ。
マリナが必ず、『5回死ぬ』という運命を。
───プレイヤーたる俺は、不謹慎だがほんの少し、安堵した。
───『5回以上』である可能性が消され、『5回』と確定されたからだ。
高笑いと共にフード姿の男が消え去り。
主人公はすぐに、悪魔アンバイエルを喚び出した。
「どうかあと1回だけ、『生き返し』を増やしてほしい」
彼の懇願に対し、悪魔は冷ややかだ。
”なんと恥知らずな人間だろう”
”《契約》は終了し。君の魂の行く先は、すでに決定している”
”その道理を曲げて更なる力を与えれば、私も《罰》を受けることとなる”
”君の願いは、まったくもって聞けんな”
それでも主人公は跪き、悪魔の足先に口付けして頼む込む。
偉大なる悪魔、アンバイエル様。
目を抉られ、耳を削がれても構わない。
どうか、どうかあと1回分だけ、と。
”私に必要なのは、魂のみ”
”肉片などに興味は、全く湧かないのだよ”
悪魔アンバイエルは、地を這う虫に向ける眼差しで。
しかし、微かに唇の端を歪めて笑う。
”されど、そこまで言うならば”
”殺してもらおうか”
”君の『素敵な仲間達』以外を”
”君から見て、正しく美しい魂を持つ人間を───10人ほど”
”それが出来たなら、『生き返し』を5回にしてやろう”
”私に下される《罰》を考えれば、釣り合うものではないのだがね”
”せめてまあ、そのくらいはしてもらおうじゃないか!”
───反吐が出るほど腐った、ニセ悪魔の言い草。
───けれども主人公は、その言葉を信じて縋り付き。
物語の『えげつなさ』が、より一層跳ね上がった。




