498話 甘くない『おやつ』 04
頭痛と吐き気に悩まされながらも、周回を続ける。
このゲーム、お蔵入りして当然だよ。
6歳の子にこんなのやらせたら、人間不信どころじゃ済まないだろ。
作ってる途中でヤバいと気付けよ、マギル!
───とはいっても、俺からすればもう、『乗りかかった船』。
執念と執念、おまけにもう一丁執念で、やり切るしかない。
《真エンド》を見ずに、このまま投げ出したくない。
そのほうが、俺の心に深い傷跡を残しちまう。
多分、マギルがわざとそうしてるんだろうけども。
このゲーム。
会話シーンのスキップとかメッセージの早送りが、搭載されていない。
何でだよ。
今ドキの仕様じゃないだろ、こんなの。
プレイヤーの精神鍛錬でも狙ってんのか?
そういう所も含めてもう少し、いやかなり手加減しろっての!
───最早、とっくに何周目か忘れてしまった頃。
───段々と、とあるキャラクターの動きが目立つようになってきた。
マリナという名の女性。
『操練士』と呼ばれる職業の、かなり地味な存在・・・だった筈。
戦闘パートにおいて、『操練士』の力は微妙だ。
方角や地形特性を活かしたり、変化させたりで各員の能力を上げるのだが。
その上昇分が、どうにも少ない。
正直、意味無いんじゃないか、くらいの感じなのだ。
そこに加えてもう一つ、これまでマリナが目立たなかった理由。
───彼女は毎回、中盤に差し掛かる頃に、居なくなる。
───いつの間にか生死不明の、行方不明となってしまうのだ。
マリナが何を考え、どう動いているのかが次第に明かされてゆく。
彼女は同郷で、幼い頃から主人公に好意を抱いており。
彼を亡き者にせんと企む者達を諌め、妨害していた。
そして。
その彼女がいつも居なくなる理由は、『殺害』。
邪魔される事に腹を立てた連中が、彼女を遠くへ連れ出し、殺していた。
しかも、その死体は焼いて砕かれ、川に流される。
主人公による『生き返し』を封じる為。
死体が無ければ蘇生できない事を、彼等が『知っている』故に。
そうやっておいて、彼等は平然と言うのだ。
「あいつ、前から様子がおかしかったからな」
「どうやら、帝国軍と通じていたみたいね」
「投降したんだろ。臆病者め」
───マリナ!
マリナこそが、ヒロインだったのだ。
見せかけの『彼女役』なんかより、心優しく。
純粋な。
主人公には彼女がいて、好意を伝える事が出来なくとも。
懸命に彼を助けようとしている、本当のヒロインだったのだ。
───待ってろよ、マリナちゃん!
───絶対に、君だけは助けてみせるからな!
ここへ至って俺は、ようやくクリアすること以外の目的を見つけ。
落ちる所まで落ちていたやる気に、猛然と火が付いた。
彼女の存在を常に意識し、プレイを心掛ける。
彼女の行動にリンクするよう、こちらの動きを合わせ。
彼女を消し去ろうとする輩の、機先を制して立ち回る。
何を、誰を犠牲にしようとも、彼女の生存優先。
だるくなって自動戦闘のオプションに頼っていた『雑魚戦』だが。
解除して手動で戦い、僅かにでも資金を稼ぐ。
その分で、彼女の装備のグレードを上げる。
道具類も潤沢に所持させる。
当然だが、LV自体もしっかりとアップ。
やれる事を、やれるだけやる。
内部で何かの数値が判定され、それが彼女の生存に関わるかもしれない。
戦闘だけでなく、イベントシーンの発生や結果に影響する可能性があるのだ。
俺は、本気も本気でプレイした。
そのお陰で、幾つもの隠しアイテム、隠しダンジョンを発見。
隅から隅まで攻略した。
新たな戦利品を用いて合成し、更なる装備品を生み出した。
───ところが、だ。
マリナが退場することなく終盤まで突入しても。
突如発生したイベントにより、呆気なく彼女は死亡する。
すかさず蘇生しても、またイベント発生。
死ぬ。
蘇生する。
死ぬ。
蘇生する。
もうメチャクチャだ。
《何があろうと、彼女を葬り去ってやる》
誰かがそう願っているかのように、不自然な。
不可解で不条理な出来事が、次々と襲い掛かる。
何度やり直し、どう立ち回っても回避できない。
たちまち『生き返し』を3度使ってしまう。
そして、最後。
文字通り命を懸けた、4度目の蘇生。
───流れるエンディングの中。
───結局その後、マリナは何者かに殺されたと明らかに。
つまり彼女は。
助けようとしても、『5回死んでしまう』のだ。




