48話 Theater for evil tongue 11
───晴れた空の下。
───遠く聞こえる、子供達の嬌声。
煌く水面を眼下にした河川敷に。
ぽつりと立った、スーツの男と、老人。
「・・・悪ぃな、司教さん。やっちまったわ」
「うん?何がかな?」
「いや・・・その、な。
“とにかく全員を集合させろ!”
“その際に、供物を持って来させるな!”
“ハイテンションだから、釘を刺しておかないと、絶対に人間を捧げるぞ!”
なんて、あいつから言われてたんでな・・・つい」
「つい?」
「『教団全て、一人も欠けることなく集結せよ』。
『供物など不要』。
『己が身一つで来たりて、悪魔の洗礼を受けよ』、と。
俺は結構、上手いこと言ったつもりだったんだがなぁ」
「ふむ」
「・・・」
「───」
「・・・まさか連中、全裸で集まるとは思わなかった・・・」
「ははは───凄い光景だったらしいねぇ。
帰って来た捕縛部隊の全員、目が死んでいたねぇ」
「そりゃ、『悪魔』が嫌がって当然だ。
俺も、あんなのとは関わりたくない」
「同感だねぇ」
「───で?
その『もう関わりたくない連中』は、どうなったんだ?」
「どう、とは?」
「今頃、冷たい土の中か?」
「そんな恐ろしい事を!」
「・・・」
「そうだねぇ───額に汗して、働いていると思うよ」
「・・・へぇ」
「無論、それは彼等の自由意志で決定された事ではないけどねぇ」
「そうだろうな」
「まあ、我々としては、かなり穏便な結末だよ」
「『全裸フェスティバル』以外は、な」
「うん。それ以外は、ね」
男と、老人の後ろを。
少年の乗った自転車が走り抜けてゆく。
それを追いかけて、1台。
もう一台と続き。
その笑い声は、遥か向こうに。
「───カトリックは、決して奴等を赦さない───」
「・・・」
「人は、人を赦せない。赦してはいけない。
それは神がなされることであり、我々の範疇ではない」
「あの若いのも、同じ事を言いそうだ」
「ほう?随分と、彼を気に入ったようだねぇ」
「それか、あんたを見くびっているか、だな」
「ははは。これは手厳しい!」
「そりゃ、悪魔だからな。
・・・それで?
あいつは休暇中か?」
「うん。5日間の臨時休暇だよ。
2日目の昼に、呼び出す予定だけどねぇ」
「・・・ひどいな」
「馬車馬のように働いてもらうつもりだよ。
彼は───あと10年したら、史上最年少の法王になる予定だから」
「・・・はあ!?本気で言ってるのか!?」
「本気も、本気。
すでに関係者の中では意見が纏まって、内定してるよ」
「・・・マジかよ・・・」
「残念だけれど、彼の意思は全く尊重されない。
嫌がろうが、喚こうが、法王になってもらう」
「そこまでの器か?」
「勿論!───そうだね、君に1つ、教えてあげようか」
「ん?何だ?」
「反対派だった枢機卿達の全員を納得させた、魔法の言葉だよ」
“悪魔を召喚出来る法王とか、格好良いだろう?”
驚いたように跳ねた魚の、水飛沫。
悪魔は溜息をつき、タバコを咥えた。
『毒舌法王』。
現実にいたら、面白そう。
在任期間は、とても短いでしょうけれど(苦笑)




