497話 甘くない『おやつ』 03
三周目。
まだ誰も命を落としていない序盤で、更に変化が起きた。
親友の様子がおかしい。
フラフラと歩き回っており、特に夜間はその所在が不明。
帝国軍からの襲撃時とか、大切な局面でさえ、居なくなる時がある。
不思議に思い、こちらも彼の足取りを追ってみる。
───結論として。
───親友は、『レジスタンスではなかった』。
主人公の身柄を差し出し、自分は見逃してもらう、そんなレベルではない。
彼は、帝国軍の兵士。
軍籍を持つ、正式な《帝国軍人》だったのだ。
その親友が死ぬ原因は、何かの手違いなのか?
それとも、『トカゲの尻尾切り』というやつか?
そこはハッキリしないのだが、事実として彼は死んでしまう。
序盤で必ず、誰より先に死ぬ。
俺は、親友を蘇らせなかった。
すると当然、彼の妹に責められる。
「どうして兄さんを助けてくれなかったの!?」
「同じ村で育った、一番の仲良しだったのに!!」
そして。
理由を聞かせて、と詰め寄られた時。
画面にウィンドウが出現。
『君の兄は、帝国軍人だ。最初から僕達を裏切っていたんだ』、と。
『生き返さない理由』が、やっと提示可能になったのだ。
だが、それを選択して告げてさえ、少女は信じない。
証拠を出して!、言い訳なんかで兄さんを汚さないでよ!、と泣き叫ぶ。
そんな状況を他の仲間達は、「・・・」の文字をポップアップして静観。
項垂れて自室へ戻ろうとする主人公が横を通る際に、また『あれ』だ。
「気にすんなよ」
「でも、オレは生き返らせてくれるよな?」
つまりは、こういう事か。
生き返さなかった仲間は、次の周回で《本当の顔》が発覚し。
それを『理由』として誰かに言えるようになる。
そうするとだ。
俺が二週目で取った行動は、『効率的なプレイ』と言い難いものがある。
主人公は4人目を助けると同時に、死亡する。
そしてすぐさま、エンディングを迎えてしまう。
それだと、自分が倒れた後のイベントが分からない。
誰が誰と話し、何をしようとしていたのか、知れないまま終わる。
───最短クリアを目指すなら、それでは駄目だ。
主人公は、逃げてはならない。
蘇生する、しないを色々試すのは良いにしても。
絶対に、能力を4回使って死んではいけない。
───ああ。
───陰惨な物語の、悪辣なシステム。
周回を重ねる度、仲間だと思っていた連中の『化けの皮』が剥がれてゆく。
レジスタンスの立場を利用し、民間人を脅している者。
隣国へ脱出を計画し、資金の持ち逃げを狙う者。
皆の食事を作りながら、そこに毒を入れている者。
優しく接してくれる『彼女役』が愛しているのは、別の男だ。
それどころか。
主人公の殺害を企て、密かに他の者達を扇動している。
まともな奴なんか、いやしない。
誰も彼もが《裏の顔》を持っていて、暗躍していて。
なのに、見捨てれば責められる。
見捨てる対象を増やせば、複数から詰め寄られる。
「どうして、助けなかったんだ!!」
「なんで、見殺しにしたのよ!?」
なじられ、罵倒され。
人でなし、人間の屑だとまで言い放たれる。
”・・・生きていたくないな”。
”・・・俺も死んだら、楽になれるのかな”。
時々自室や、誰も居ない場所で呟く主人公。
そんな彼を、プレイヤーは死なせてやれない。
真相を解き明かし、ゲームをクリアする為に、操作しなければならない。
周回の度に上昇する、アクション戦闘パートの難易度。
次第に隠そうともしなくなる、『リーダー殺害計画』。
その精神的苦痛を堪え、主人公を動かし続ける。
けっして、彼が倒れてしまわぬように。
悪意と憎悪に満ちた世界の中、最後まで『死』に逃げ込んではならないのだ。
もはや仲間どころか《最悪な敵》と化した連中と、同じ屋根の下で暮らし。
少しでも多くの『情報』。
彼はもう知りたくもないだろう、『闇』に触れる為。
プレイヤーの欲望を満たす、ただそれだけの為に生き延びるのだ。




