495話 甘くない『おやつ』 01
【甘くない『おやつ』】
俺は、特に『ゲーム好き』というわけではない。
パーティー系のメジャータイトルは、ごく普通の腕前。
アクション、格闘系もやっぱり、そこそこ程度で。
あえて言えば、得意なのは『延々とダンジョンに潜って宝探し』なヤツだが。
これは幾らやり込んでも、あまり自慢出来るようなものではない。
極論ではあるが、時間さえ掛けるなら確率を引き寄せ、誰でも結果が出せる。
自己満足の、ひっそりとした趣味でしかない。
そもそも、ゲーム以外にもやるべき事が沢山ある身だ。
仕事より大切な・・・まあ、色々とあるわけだ。
色々と。
しかし、そんな俺が。
───ここ3日、何もかも投げ出してゲーム漬けになっている。
───ただ今、絶賛『ドはまり中』だ。
こんなのは、《伝説の日本刀》を探して迷宮最深部を彷徨って以来の事。
応接室のTVにリーシェンが置きっ放しのゲーム機を繋ぎ、ひたすらプレイ。
立ち上がるのは食事で呼ばれるか、灰皿に山盛りの吸殻を捨てる時だけ。
そのタイトル名は、《雑音の岸辺にて》。
俺が買ってきたわけではない。
有名メーカーの、『有名シリーズもの』でもない。
なんと、マギルが作ったゲームだ。
ニュージーランドで『分体』が育てている子供に、ゲームが欲しいとねだられ。
市販の《教育上よろしくないかもしれない》ものはどうなのか、と悩んだ末。
それならば、と一週間で一気に作り上げたそうだ。
そして渡す直前、《やや対象年齢が高かった》とお蔵入りした作品である。
ジャンルとしては、アクションRPG。
それプラス、ノベルADV。
基本的には、行動選択や戦闘がメインとなり。
要所要所でイベントシーンが入って、選択肢が出てくるタイプだ。
───主人公は、やや陰のある青年。
彼は8歳の時、悪魔アンバイエルと出会い、契約を交わし。
自分の死後、魂を差し出すのを条件に《死者を生き返らせる力》を手にする。
ただし、それは4回までしか使えない限定能力。
しかも4回目には、相手が生き返る代わりに自分が死ぬことになっている。
いやいや。
本当の悪魔は、そういう内容の契約はしないけどな?
人間の持つ一般的なイメージに合わせると、こんな感じになるとは思うが。
まあそれで、主人公は成長した後、故郷の村を離れ。
帝国の苛烈な圧政に反抗すべく、仲間達とレジスタンスを組織する。
リーダーとなった彼を支え、励ます親友。
義侠心に溢れる、頼もしい格闘職。
弓に秀でた奴や、頭脳派の魔術師。
爽やか美人な、お付き合いしている彼女もいる。
皆、苦難の中でも信念を持って闘う、大切な仲間なんだが。
悲しいかな、その総数は15人にも満たない。
圧倒的な帝国軍の前に、成す術無し。
小競り合い程度は凌げても、向こうの本隊が来ればたちまち追い詰められる。
拠点が幾度も襲撃され、資金や物資は減る一方。
どう考えても、勝ち残れる要素が無い。
───ここまで説明すれば、もう分かると思うが。
仲間達は、次々に倒れてゆく。
それを全員、生き返らせることはできない。
自分の命を犠牲にしてさえ、4回。
4人までしか救えない。
仲間の誰もが、本当にいい奴で。
俺は命の価値を比べて選択するのが、嫌でたまらなかった。
しかし、これはゲームだ。
選ばないとストーリーが進行しない。
苦渋の決断で、俺は。
親友、彼女、魔術師、そして重戦士を蘇らせた。
つまり、他を見捨てた。
まあ、重戦士を助けた4度目で自分も死んだから、許してくれ。
エンディングは案の定、BADな感じだ。
主人公が倒れた後、間を置かずレジスタンスは壊滅したらしい。
それを悲壮なBGM付きのモノクロ映像で見せ付けられのは、かなり心にきたよ。
しかし、ゲームだ。
これはゲームなのだ。
俺は何とか、自分を慰めたさ。
要は『マルチエンディング』ってやつだろ?
初回プレイは、何となくでいいんだよ。
次からは助ける仲間を変えて。
それを何度か繰り返して。
そうしたら、『真のエンディング』に辿り着けるんだろ?
きっと、俺じゃなくてもプレイした者は全員、そう思うに違いない。
───だが。
───二周目からが、本番。
この世の地獄。
『本当の悪魔』が住む『本当の地獄』より恐ろしい物語の、幕開けだった。




