表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
493/742

491話 夏の宴、革命 07


月の光。

星の瞬き。


風そよぎ、木々の枝が揺れる。

下生えの草から、強い生命(いぶき)を感じる。



───ガモント・ゴーディエンは、夜の森に澄み渡る空気を深々と吸って。


───それから、大きなチキンカツサンドに猛然とかぶり付いた。



美味(うま)い。


そして、喜ばしい。


およそ一年あまりの時を経て、精霊達が戻ってきた。

ようやくの《和解》が成った。


自分の右肩には今、一匹の光の精霊がとまっている。


それだけではない。

広場のあちらこちらで、夕食と兼ねた宴に興じる者達に混じり。

楽しげに踊ったり、飛び回っている『小さき親友(とも)』。


ああ───暮らしの中に、精霊(かれら)がいる。


懐かしくもあり、新鮮でもあり。

一年前と同じ至極当たり前の光景が、じわりと胸に染み入って嬉しい。



───有難う、精霊達よ。


我らが手を取り合ってこそ、森の調和が保たれる。

やっと一安心だ。


これからは、もう。

レトルトパウチを温めるのに、わざわざ火をおこさなくてもいいのだ。

除染が終わり、明日の昼頃からは生活用水に困ることもなくなる。

目出度(めでた)い。

今宵は大いに食べ、飲んで愉しむべきだ。



んん?

何やら、向こうのほうが騒がしいぞ。


本当に全ての精霊術が使用可能になったか、試そうとしている奴がいるが。

まあ、放っておいても大丈夫だろう。

《火炎旋風》だのやり始める前に、周囲(まわり)が止めるに違いない。


多分。



───おっと。


───『主役』が目を覚ましたようだな。



木陰に横たわっていた天使の一名が、呻きながら身を起こし。

介抱していたイエリテからミネラルウォーターのボトルを受け取っている。



「やあ、フォンダイト殿。具合は如何かな?」



声を掛けると視線が向けられるが、彼の顔は紅潮しており、やや目が虚ろだ。



「・・・ああ、族長殿。

まだ頭が重く、その・・・皮膚にピリピリと刺激があるような」


「おそらく、《精霊酔い》だな。

精霊術を初めて使った子供が、よくなるやつだ。

その程度で済んで幸いだったよ」



命を落としていてもおかしくなかったぞ、と続けるより前。

イエリテから、猛烈な非難の目が突き刺さる。


いやいや。

そう睨むでないわ。


私はお前の親族で、しかも族長だぞ。

そう睨むな、というに!



だが、何というか───これも今夜の喜ばしい事の1つなのだろうか。


イエリテの事は、ずっと気に掛かっていた。

この()は、悪い意味で先々を考え過ぎるきらいがある。

責任感が強く、誰かに任せるよりも全部自分で抱え込んでしまう。

それ故に思い悩み、立ち止まり。

伴侶を持つことをせず、日々を楽しむこともどこか諦めている様子だったが。


その彼女が、今こうして目の前で、大きな感情の変化を見せている。


何があったのだ?

たった半日、《地上の星》の一行と行動を共にしただけで。


いったい、何が───


まさか。



「もしや───『ラヴ』か」


「!!」


「??」



さっと顔に赤みが差し、(うつむ)くイエリテ。

それに対して、元首殿のほうは特に変化無し。

まあ、《精霊酔い》で元から赤いからな。


それとも、真性の鈍感男か。



「ああ、その。とにかくだ。

貴公らのお陰で、精霊達の機嫌が直った。

これまで通り、精霊術も使えるようになった。


この森のエルフを代表して、深く感謝するぞ、元首殿」


「・・・そうか。それは良かった。

何とか格好が付けられた」


「格好?」


「いや、こちらの話。

だが、機嫌を直すのと引き換えに、精霊達から『頼み事』をされてな」


「うん?」


「難しい事ではない。ただの伝言なのだが」


「伝言??精霊が??

何故だ?直接、我らに言えばよかろうものを」


「・・・”そうすると(かど)が立つので、私を間に挟みたい”、と」


「──────」



ちらり、と自分の右肩を見れば。

どこか気まずそうに光の精霊が離れて、飛び去ってゆく。


何だ。

何だというのだ、これは。



「族長殿。

伝言の内容に関して、私にはどうにも理解し難いところがある。

だが、約束した以上はそのまま、ありのままにお伝えしよう」


「うむ」




「・・・・・・”《呪歌》が、ダサい”、と」


「───は??」



「”聴くに耐えないから、早急に何とかしてくれ”、と」


「───なっ、なんじゃとおおおっ!!??」



思わず上げた絶叫で。

広場にいる部族全員の視線が、こちらへ集まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そこかぁ、、、「ありとあらゆる法術、魔術を無効にする」呪歌が気に入らないんじゃなくて、「とてつもなくダサい」呪歌が気に入らなかったのか、、、そこだったのかぁ、、、 フォンダイトさん、やり遂…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ