490話 夏の宴、革命 06
「でも、フォンダイトさん!」
「・・・よいかな、イエリテ殿。
戦争自体が、そうではあるのだが。
《戦術毒》に限定しても、経緯や関係はとても複雑だ」
真っ直ぐ正面から彼女の瞳を見つめ。
むずかる幼子をあやすように言葉を紡ぐ。
「最初に原案を出した者。
承認し、研究開発を命じた管理者。
構想を形にするべく、心血を注いだ研究者。
出来上がった毒の使用を計画した、作戦指揮者。
それを天界から地上へ運んだ輸送者。
実際に毒を散布した、工作班の所属者。
ざっと挙げるだけでも、関わった者がこれだけいる。
しかも、それぞれが複数存在している。
そういった関係者全員を呼び付け、謝らせることは不可能だ。
現実として、あまりにも無理な話だ。
仮に何名か引っ立ててきたところで、謝罪はおろか、口を開きもすまい」
「──────」
「・・・だがな。ここには、私がいる」
「え」
「今、この地には天使が存在し。
その中で私が、最も偉い。確実に偉いのだ。
精霊に頭を下げるべきは、私なのだ」
「フォンダイト、さん」
「私は、元々が偉い上に。
独立国家の元首となったからには、より一層、圧倒的に偉い。
このフォンダイト・グロウ・フェネリ。
天界で昼寝している凡百と一緒にしないでいただこう」
冷淡すぎないよう、口元に精一杯の優しさを浮かべ。
中和剤の携帯タンクを彼女に手渡す。
「謝罪するのは、上に立つ者の義務。
そして、特権でもあるのだ。
私が精霊達に詫びている間に、貴方は隙を見て可能な限りの除染を。
だが、少しでも危険を感じた場合は、全力で逃げてほしい」
言葉を失った彼女に、大臣達もタンクを押し付け始めた。
「元首、俺らも謝罪しますよ」
「こう見えて、そこそこは偉いんです。大臣ですからね」
「うむ、分かっているようだな。
・・・さあ、イエリテ殿。
昨日までは考えもしなかった事を、今日やろうではないか。
その行動をもって、明日をより良くする為に」
「───フォンダイトさん───」
よし。
これでいい。
完璧に決まった。
百戦錬磨とまではいかなくとも、相当な『モテ男』としての体裁はとれた。
・・・後は、『謝罪』のみ。
このフォンダイト。
実は、上位者に対する形式儀礼の他に、頭を下げたことが無い。
とんと無い。
しかしまあ、やってやろうではないか。
きらきらした瞳で期待しているイエリテ殿に、格好の良いところを見せたい。
そういう『本当はモテない男』の、悲しき性よ。
いやいや。
邪念はともかく、進むべし!
この『謝罪』こそが、我々《地上の星》の分水嶺。
見事に成功させ、エルフ族の『真の友』とならねば。
金輪際、あの硬い杖で殴られて骨を折らぬ為に!




