表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
491/742

489話 夏の宴、革命 05


途中、何度かの休憩を挟みながら、中和作業を続け。

()が傾く頃には、森の相当奥にまで辿り着いていた。


勿論、まったく見たことのない場所だ。

エルフの集落から遠く離れ、周囲の地形は従軍中の記憶にも存在しない。



「皆さん、そろそろ戻りましょう」



イエリテ殿の声が掛かるが。

私と10名の大臣達は違和感をおぼえ、思わず目を見合わせる。



これまで幾つかの森を除染したせいで、我々もコツのようなものを習得した。


水脈の流れ。

地脈の繋がり。

エルフには到底及ばぬものの、大まかには理解できるようになったのだ。



「しかし、この先には大きな地脈がある筈だが。

そこは除染しなくて良いのか?」


「放っておきたくはないのですが───今は無理だと思います」


「??」


「そこより手前に、精霊達が集まっていて。

その───非常に、荒れているんです。

手が付けられません。

近くに寄ろうとすれば、集中的な攻撃を受けてしまいますよ」


「・・・ふうむ・・・」



精霊とは、荒れるものなのか。


『四元二律に二極』。

地水火風と、それぞれの陰陽。

それらから独立した、光と闇。


私にはその程度の知識しかない上、彼等の姿を見る事も不可能。

専門家であるエルフ達が『手が付けられない』なら、手伝える事も無い。



「これに関して、解決の見通しは?」


「日本に住んでいるエルフ族を呼ぶ、そういう案が出ています」


「日本の?」


「ええ。

彼等は《テング》と呼ばれる、『風』に特化した部族です。

わたし達とは異なるやり方で精霊と交信(コンタクト)し、説得が可能なのでは、と」


「だが、『風』に特化ということは」


「それ以外には、あまり期待できないかもしれません」


「むむ・・・《精霊が荒れた》ことによる弊害などは?」


「───しばらくの間、わたし達は精霊術を行使出来ません。

おそらく、あと一年か二年くらいは」



イエリテ殿の表情が、またしても曇ってしまった。


いや、これは我々にとっても『よろしくない』事だ。

オーストラリアのエルフ達が精霊術を使えない、と発覚すれば。

天界は再度の侵攻を計画するやもしれぬ。


そして、戦端が開かれたなら。

同盟関係である《地上の星》も無縁とはいかない。


困るではないか。

とてつもなく、猛烈に困る!



「こうなった原因は、判明しているのだろうか」


「それは───その───」



言い淀んだ彼女の様子に、閃くものがあった。

当たってほしくない(たぐい)の予感。


こういうものは、往々にして『当たってしまう』のだが。



「───《呪歌》を使ったせいです」


「・・・・・・」


「精霊達は、《呪歌》を嫌います。

唄っている間こそ、その効力を維持する為の協力はしてくれますが。

終われば、こういう事になる。

わたし達はそれを知りながらも、《呪歌》を使う道を選んだのです」


「そうさせたのは、我々だ」


「いえ、それを───フォンダイトさん達の責任だと言うつもりは」


「この森で戦った以上、その責任の中に含まれている。

先程、貴方も言っただろう。

過去は消えぬ。

都合の悪い部分からだけ逃げるなど、我々は恥知らずではない」


「──────」


「《呪歌》を使うに至るまで追い込んだのは、我々の責任だ。

そして。

そこには、戦術毒が深く関わっている。


とてもではないが、除染せず帰るわけにはいかんな」


「───えっ」



声を上げた彼女に構わず、視線で大臣達に合図すると。

みな頷き、私の後に続いた。


そうとも。

それくらいは腹が()わらねば、《独立国家》を名乗れぬ。

何事も成せないまま終わる、我等ではないのだ。



「待って!待ってください、皆さん!!」



慌てて追いついてきたイエリテ殿が、私の貫頭衣にしがみつく。



「駄目です!危険です!

本当に、怪我するくらいじゃ済みません!!」


「どうなろうと、精霊達に謝罪せねばならん」


「何を謝罪するんですか!?」


「戦術毒を使い、この森を汚染した事についてだ」


「それこそ、皆さんの責任じゃないでしょう!?

作ったわけでも、使ったわけでもないのに!!」


「・・・・・・」



裾を握り締めた力で、彼女が本気だと分かる。


振り(ほど)くのはまあ、不可能ではないにしても。

それを実際に行えば、(いささ)か暴力的になってしまうだろう。


だが何にせよ、このままオーストラリアから退散するわけにはいかぬ。

子供が遊びに来たのではないのだ。

中和作業を完了せずして、我等の仕事は果たせない。



加えて、だ。


この状況。

私の知る範囲で判断するならば、『修羅場』だ。


言葉を荒げる女性と、背を向ける男性。

構図的に誰が見ても、そういう『デリケートな場面』である。


ここで単に彼女の腕を振り払い、進んだとしたら。

それは、《あまりよろしくない》振る舞いだ。

《経験が無い男》の、《感情の機微を無視した行動》と捉えられかねない。



それは困る。

かなり困る。


大臣達の手前、私は『著しくモテる男』。

こういう時にこそ、一般男性とは違う行動ができる男。

彼等に私の女性経験の浅さを、悟られるわけにはいかないのだ。


絶対にだ。



「・・・イエリテ殿」



向き直り、勇気を振り絞って。

彼女の両肩を掴んだ。


ええい、何のこれしき!

白竜に睨まれた、あの時に比べれば!

否、杖で殴打された、あの夜の恐怖に比べれば!



「申し訳無いが、貴方の理屈は少しも通らぬ。

精霊達からすれば特に、腹が立つ事この上無き『言い訳』であろう」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ