488話 夏の宴、革命 04
「エルフ族が滅ぶとは、まだ決まっていない」
吠え叫びたい感情を押し殺して、言った。
私は。
《無責任な理想論》や《机上の精神論》が嫌いだ。
とりわけ《根性論》など、以ての外だ。
口にしたくなどない。
だが、こればかりは黙っておれぬ。
「・・・この地で、いや、それよりもずっと以前から。
私は貴方方を、時代遅れの自然主義者だ、蛮族だと蔑んできた。
それは否定しない。
『敵』であるならば、そんな認識や偏見でも構わぬと、自己弁護すらしよう。
だが、今は違う。
エルフ特有の考え方を知り、生活風習に触れて、それらは変わった。
エルフはけっして、馬鹿ではない。
我等は、馬鹿を相手に同盟関係を結んだのではない。
貴方の予測や計算結果が、どうであろうと。
明日や明後日で終わりを迎える訳ではあるまい。
まさに命運尽きようとする者が、マンゴープリンに歓声を上げたりはすまい」
「──────」
「一年あれば、一年分の『何か』ができる。
百年あれば、更に積み重ねることができる。
よいか、イエリテ殿。
諦めるには、まだまだ早い。
このフォンダイト・グロウ・フェネリを前にして。
勝手に諦めるだの達観するなどは、厳に慎んでいただきたい!」
「───はい───」
「あ、いや・・・失礼、した・・・」
勢いのままに捲し立てたが。
相手の眼尻に涙の滴を見て、咄嗟に顔を逸らす。
まったく我ながら、青臭い事を喋ったものよ。
本来ならば、もっと具体的な解決策を提示したかった。
泣かせるのではなく、喜ばせたかった。
私の《秘めたる計画》は、実現すればエルフの窮状を救える。
『種族の限界』など、そんなものは軽く超越できるのだが。
現在はまだ、語ったところで《絵空事》。
否、絵にすらなっていない状態だ。
「フォンダイトさんの仰る通り、ですね。
わたしの『予測』に、こうしてあなたと語らうことは入っていませんでした」
「それは、こちらとて同様だ。
天界からの離反、独立国家の建立と元首就任。
昔の自分は、想像すらしていなかった。
されど、断じてこれは、《失敗》の結果ではない」
「──────」
「私も、貴方も。
現在の状態こそが、《成功の証》なのだ。
故に、明日はもっと上手くゆく。
必ずや、そうしてみせよう」
「はい!───有難う、ファオンダイトさん」
うむ。
イエリテ殿の表情が、明るくなった。
良い雰囲気に戻った。
ふふん。
さほど難しくもないではないか。
種族や性別を違えども、意思疎通の原点は『会話』だ。
明確な理論と誠実さが、共感を呼び。
真理と情熱で相手を惹き付け、心を預け合う。
この程度は元首たる者、さらりとこなせなくては!
そうだ。
何があろうと、知られる訳にはゆかぬ。
後ろにいる10名には、特に。
これまでの私が、女性というものに殆ど縁が無かった、など───




