47話 Theater for evil tongue 10
うおおおおおおお。
ああああああああ。
広間に、呻きのような。
感嘆のような、どよめきが響き渡った。
───召喚陣の中央に出現した、悪魔。
連中にとって、悲願であり。
亡き教主への弔いであり。
これからの自分達の命運さえかけての、召喚成功。
まあ、気持ちは分かる。
違う理由ではあるが、僕も同じように叫んでしまいたい!
「───久しぶりだな、ベインバドル」
バルストが、事前に決めておいた僕の偽名を呼ぶ。
「───ああ。久しぶりだ、悪魔バルスト」
動揺を押し殺して、僕も応じる。
陣の中。
バルストは、黒いスーツ姿ではなく。
目の覚めるような青のガウン(豪勢なファー付き)を纏い。
白金の額冠を被り。
象すら噛み裂けるような牙を持つ、三ツ頭の、巨大な魔獣に乗っていた。
・・・ワイングラス、片手に。
《おまッ・・・!お前ッ!!何やってんだッ!?》
《“悪魔らしく”、っていうリクエストに応えたつもりなんだが》
繋いでいる制御回路を通して怒鳴ると、腹立だしいほど落ち着いたバルストの返答。
《お前ッ!お前って奴はッ!!》
《秘書に相談したら、こうなったんだ》
《───はあッ!?》
《俺としても、これは本意じゃあない。
そこは、分かってくれ》
《~~~~~~~~!!!》
もはや、言葉にならない。
何だ、これ!?
何で魔獣が!?
甲冑を着て、禍々しい槍を携えたアレは、何だ!?
直方体に、びっしりと眼球が貼り付いた、アレは?
グツグツと泡立ち、時折、噴水のように吹き上がっているアレは?
剛毛に包まれてのたくっている、消防用ホースより太い、オレンジ色の蛇は?
誰が、いつ、“仲間を連れて来い”、って言った!?
・・・いやいやいや!!
それよりも!
お前の隣にいる、黒いフォーマルドレスで。
真っ赤な爪を伸ばした───
『顔の無い女』は、何なんだよッ!!??
・・・顔が、無い?
・・・顔が、見えない?
自分が見ている、『視覚情報』だと信じているそれが、本当は録画か何かで。
女の首から上に、常に誰かが修正を掛けているような。
見えないこの状態のほうがマシなのに、見えない事がおぞましいような。
・・・駄目だ・・・。
これ以上、見てはいけない・・・。
この女悪魔は、危険だ!
間違い無くバルストより格上の、大悪魔だ!
悪魔様~~~~!!
大悪魔だ~~~!!
我等に祝福を~~~!!
・・・僕の背後から、熱狂した邪教徒達の、野太い声。
おい。
これは、アイドルのライヴか?
お前らみんな、アイドルファンか?
熱いのか冷たいのか不明な、多量の汗を背中に感じながら。
とにかく!
とにかく、計画通りに!!
「バルストよ・・・こやつらに、『魔の導き』を。
知り合いの・・・ゲイリーの残した子達なのでな」
「なるほど───よかろう」
鷹揚にバルストが頷くと、歓声と、むせび泣きが上がった。
良かったな、お前ら!
いい夢が見れたな!
僕にとっては、悪夢以外の何ものでも無いけどなッ!!
《バルスト!昨日教えた、アレを言え!
・・・いいか?
間違うなよ、慎重にだぞ!?》
《おう。任せとけ》
召喚陣の中。
騎士の槍の石突きが、地を打ち鳴らす。
静まり返る広間に。
悪魔バルストの声が、昨夜とは全く違う重厚さで───
「汝ら───我が言葉を胸に刻め。
此処より北西の森を抜け、更に北へと進んだ先の丘に───」
キメろよ、バルスト!
最後の最後まで、気を抜くなよ・・・!!
ワイングラス・・・。
マギルさんのセンスです。




