487話 夏の宴、革命 03
「・・・如何なる所以で、そのように悲観されるのだ」
不快感を抑え、静かに問い正す。
「現状に何か、深刻な問題が?」
「いいえ。問題なんて、ありません。
先に言っておきますが、天使とエルフの争いも関わりはありません」
「??」
「ただ単純に───種族としての、限界です」
「・・・限界?」
「ええ。
《悪魔》、《天使》、《エルフ》。
人間からすればこの三者は、幻想の中でとはいえ、上位の種族でしょうね」
「・・・まあ、そうであろうな」
「───けれども、エルフには『上位種』に相応しくない、欠陥があります。
それは。
何かを犠牲にしなければ、存在出来ないことです」
「・・・・・・」
「わたし達は、食べなければ生きられません。
水を飲まないと、空気を吸わないと死んでしまいます。
食事をしなくてもお腹が空くだけの、悪魔や天使とは根本的に違います。
たくさんの物質───資源に依存した存在なのです」
それは・・・もしや。
「生存環境との調和が崩れている、ということか?」
「その通りです。
わたし達は《大戦》以降、戦死によって大きく数を減らしました。
ですが、それでもまだ『多すぎる』。
じりじりと森の資源を喰い潰し、自らの首を締めている。
これは、戦争や戦術毒以前の問題です」
話しながら、彼女が指で示す場所。
そこに携帯タンクから伸ばしたノズルを挿し、『中和剤』を浸透させる。
巻き散らせば良い、とはいかない。
量産体制に入ったといえど、纏まった量の精製には時間が掛かる。
一滴たりとも無駄な使い方はできない。
「昨今は人間達も、環境保護や持続可能な生産消費に取り組んでいるけれど。
残念ですが、それだけでは足りません。
世界樹の力を使い、精霊術を駆使するエルフが、この有り様。
それらに頼れない人間達が、”ちょっと気を付ける”程度では無理です。
わたしの試算では文明というか、生活レベルを50年ほど巻き戻し。
何よりも、人口を現在の1/3以下まで減らすこと。
それを実現しない限り、根本的な解決には結び付かないでしょうね」
「・・・無理だな」
「ええ。無理なんですよ」
快適さも便利さも、一度味わってしまえば手放せぬ。
電力削減の名目で、人類全員がエアコンや冷蔵庫を捨てられはしない。
そして。
『口減らし』に自ら志願する者も、いるわけがない。
現実として、ほぼ不可能だ。
それこそ《小惑星衝突》級の、未曾有の大災害でも起こらぬ限り。
しかし・・・
「───きっとエルフは。
《実験用の種族》であり、《警報装置》なんです。
理想がどこまで通用するのか、どこで破綻するのか。
最終的な失敗を誰かに伝えて、決断させる為の。
わたしはエルフの現状を、そういうふうに捉えています。
皆も言葉にはしませんが、終わりに向かっているとは感じているでしょうね」
「待たれよ。
それはまだ、『決定』ではない」




