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486話 夏の宴、革命 02


(・・・様々に、納得がゆかぬ)



フォンダイト・グロウ・フェネリは表情(かおいろ)を変えないまま、奥歯を噛んだ。



(見通しが甘かった、と反省するべきか)

(それとも、幸運だと喜ぶべきなのか)




日常的に使用している《法術防御壁》の全てを切って、森へ入り。

名乗りの後はすぐさま、この地で戦闘行為に及んだ過去を謝罪したのだが。


族長であるガモント・ゴーディエン氏により、それは途中で(さえぎ)られた。



”そういうのはもう、無しでいかないか、元首殿!”


”終わった事は終わり!

私としては、届けてもらった補給物資にほうに興味があるのだがね?”



実際、族長は『中和剤』のタンクより、コンテナに飛び付いた。

昼食から間もない時間の筈だが、内容物のリストを見るや、目の色を変え。

早速、マンゴープリン&アイスDAIFUKUのパッケージを開けて食べ始め。


自分だけ、ズルいぞ!、と他のエルフ達も押し寄せ、大混乱となった。


族長が開けたコンテナは───『我々のほうからの』補給物資だ。

わざわざ《森の戦友支援会》のものと分けたのは、処分し易くする為。

殺し合いをした天使からの差し入れなど、食べたくなかろう。

だから、我々が帰った後にすぐ廃棄できるよう、といった配慮だったのだが。


それは、まったくの無意味であると証明された。



そんなにマンゴープリンが食べたかったのか。

それとも、DAIFUKUが好物だったのか。



「───フォンダイトさん、どうかしましたか?」



隣を歩いていたエルフの女性から、声が掛かった。

思考の海に沈む私を見て、心配したのだろう。


『どうかしているか』と聞かれれば、それはもう『どうかしてはいる』。


かといって、”貴方達の事で悩んでいるのだ”とも言えず。

その『表層部分』を提示し、一応は嘘にならぬようにするしかない。



「・・・まさか、これほど自然に受け入れてもらえるとは、思っていなかった」


「すでに、お互いが『友好的に付き合いたい』と願っているんです。

それなら、こうするのが一番でしょう?」



落ち着いた笑顔で、あっさりと返されたが。

やはり私としては、得心がいかない。


《中和作業》における案内役として、同行する彼女。

聞けば、族長の(ひい)孫だというではないか。

そういう立場の者を一名だけで案内役に任ずるなど、まともではない。

非常識である。



「いや、しかしだな、イエリテ殿」


「『殿』は要りませんよ」


「そうはいかぬ、イエリテ殿。

私が口にするのもおかしな話だが、案内役とは実質、《監視者》の筈だ。

我々の行動がエルフにとって不利益となる場合、それを制止する役目が、」


「ああ、ちょっと待ってください、フォンダイトさん」



つい言葉にしてしまった『一般論』は。

柔らかく、しかし、はっきりと止められた。



「不思議ですね。あなたは豪胆なんだか、繊細なんだか。

《独立国家》を建立するような方を相手に、私だけで何も出来ないですから。

そういう事自体、考えてもいません」


「だが・・・我々がこの地でエルフと戦い、殺した事実は消えぬ」


「ええ。それは消えないでしょうね、お互いに」


「だから」


「けれど、皆さんによって戦術毒の組成式がもたらされたのも、事実です。

誰がどう言おうと、皆さん自身が否定しようと、(くつがえ)せませんよ?」


「・・・・・・」


「わたしだって、天使と戦い、殺しました。

『少し』どころではありません。


でも、それが消せない過去だとしても。

今日は、過去(きのう)と違う事をしよう。

明日は、もっと違う事をしよう、って。


───それで、いいじゃないですか」



腰帯の後ろに差した彼女の杖が、歩みに合わせて揺れている。


その恐るべき一撃が、我等に打ち振るわれることは。

おそらく、ない。


それこそが、過去とは違う道へ進んだ『現在(いま)』だ。



「こんなものですよ、エルフって。

びっくりするくらい、単純で享楽的なんです。

笑ってしまうでしょ?」


「いや、笑うなど・・・それに助けられている。

こちらも、そうありたいと思う」


「まあ!

けれど、完全に真似しては駄目ですよ、フォンダイトさん」


「うむ?」


「これが普通の《楽観主義》《平和主義》なら、良いんですけどね。

わたし達エルフの場合は、何というか。

すでに未来を、諦めているんです」


「・・・・・・」



諦める?


何故だ。

理由が分からぬ。


少なくとも局地戦は終結し、オーストラリアに対する包囲網は解除された。

戦術毒による被害も、除染によって復旧の目処(めど)が立っている。


なのに、何故。

何を理由に彼女は、『未来を諦めている』などと言い出すのか。


まったく、聞き捨てならんぞ。


困るではないか───国家として同盟を結んだ、『地上の星(われわれ)』が!



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