表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
484/745

482話 好機 06



「・・・さあ、《連合の非加盟員》が『いなくなった』ところで」



もはや議長さえ口を挟めない会議場。

ファリアの声が殊更(ことさら)に響き、支配する。



「丁度良い機会だし、皆様方に確認しておこうかしら」



僕らの現在位置は、U字形テーブルの左先端。

血の海と化したフェンビックの席の後ろ側。


そこから1つずれて、ファリアが右に歩いた。



───あれま、可哀想に。


マイネスタンの席上は、さっきのが『直撃』だ。

かなり悲惨なことになってるね。

(おびただ)しい血糊と、もう何処(どこ)にも戻れず再生出来ない肉片がブチ撒けられ。

年端もいかない獣狼族(ライガルフ)の『婿頭首』は、ガタガタと震えてる。

吸血鬼の本気の殺し合いとか、今まで見た事なかったんだろうな。


これこそ、君が脚を踏み入れた世界の実態だよ。

『子作り』なんかより、よっぽどおっかないでしょ?



「マイネスタンに、《連合》から離脱する御予定は?」


「───ッ───!」



俯いていた『婿頭首』の頭が跳ね上がるが、言葉が出せないようだ。


でもね。

だからって勘弁してやれないんだよ、こうなっちゃうとさ。



「聞こえなかったの?

優しく椅子から蹴り落としましょうか?」



獣狼族(ライガルフ)だろうと他家の、それも頭首にかける慈悲はない。

仮に僕が止めたとしても、ファリアが止まる訳がない。



「───マイネスタンは、離脱しない」



頭首の代わりに、『その伴侶』が答えた。

震えてはいるけど、一抹の憎しみを含んだ声だ。

うんうん、頑張ったねー。

《変態さん》の意地ってやつかい?



そして、次。



「・・・シルミストは?」


「離脱しない」



次。



「・・・ベイジンは?」


「離脱しない」



(いま)だ傷が塞がらず、出血も止まらない姿で、ファリアが歩いてゆく。


カツ、カツと固い靴音を鳴り響かせ。

各家の背後から、《死刑執行人》のように。



───まるで『マフィア映画』。


───それもまさに、山場のシーンだよ。



こういうの、アルもやったり、やられたりしてるんだろうか?

背中越しに脅迫されるプレッシャーは、相当なもんだろうな。


問い掛けの真の意味は、『今ここで、ズィーエルハイトと喧嘩するか?』だ。

その返答が得られるまで、ファリアは何度でも訊ね返す筈。


こんな状況で”抜けます”と言える奴なんて、いやしないさ。

そのつもりがあろうと、なかろうと。

言ってしまえば即、《第二幕》の開演(スタート)だ。


僕としてはこれ、ファリアの再生が完了するまでの《余興》であってほしい。

勿論、『各家を威圧すること』が主たる目的だけど。

でも本人は多分、”本当に()り合ってもいい”と思ってる。

だからまだ、気を抜くわけにはいかない。



マリス。


アルディー。


一席飛ばし、イドール。


ノルモンド。



そして。

本来僕らが座っていた席の、《左隣》───



「・・・ガニアは?」



問い掛けと同時。


複数の、息を飲む音が上がった。

こちらの顔が見えている、向かい側の席の奴等から。


これまでと同じ声色、そして口調。

けれど、ファリアの表情は。


溢れ返る憎悪と殺意を微塵も隠さない、臨界点のそれだったからだ。



「───ガニアは、抜けない」



何ら動揺することなく、ガニア家の頭首が悠然と答える。



「・・・抜けずに戦っても、いいのよ?」



真後ろからその肩に()を置き。

ゆっくりと言い聞かせるように続けるお姫様。



「今、ここで、すぐに」



マジだ。

本当の、超絶本気な挑発だ。



「お断りだな。

その手を離せ、下郎。

いい加減に屋敷へ帰って、臓物臭い獣の匂いを洗い流したいものだよ」



おおっと!

こりゃまた、中々の気概だね。


流石はズィーエルハイト《最大の怨敵》、ガニア。

その頭首を張ってるだけあって、言いやがるなぁ。


おう、上等だよ!

お前も毒をブチ込んだろかい!?

ええッ!?



「あら、それは失礼。

残念ね・・・とっても」



初めて、ファリアが笑顔を見せた。


うん。

一瞬だけ見て、笑ってるのは分かったんだけどね。

むしろそっちのほうが恐いから、しばらくは視線を(そら)しておくよ。



「・・・では、最後になったけれど。

ジャスレイ家はどうかしら?」


「抜けるわけがない」



議長席からの、吐き捨てるような即答。


まあ、そうだろうね。

それで?

誰も抜けないなら、じゃあ、どうするおつもりで?



「閉会だ───これにて、閉会とする!」



───いよおッし!!


一件落着だ!!


良くやった、ファリア!

良くやったよ、僕!

これで大手を振って、凱旋できる!


やっぱりさぁ。

本家の(やつ)、ちょっとだけ飲ませてもらおうかなぁ?


考えれば考えるほど、《怪しさ満点の血》ではあるんだけどね。

それでも、アレってさ。

正直、今でも忘れられないくらい『美味しかった』んだよね。


僕のとこで溜めてるのより、圧倒的なコクとまろやかさで。


うーーん。

どうしてなんだろうね?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ファリアさんがすごすぎて誰が議長なのか、分かったものじゃないな。完全に主導権を、流れをつかんだもの。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ