479話 好機 03
「・・・それで、貴方はどうしてほしいのかしら」
会議場に満ちた沈黙。
その裏側のざわつきを無視して、ファリアが発言した。
「《承認》?それとも、《反対》?
ズィーエルハイトとしては、どちらでも構わないのだけれど」
相手の意図を理解した上での、素っ気無い口調。
うんうん。
君みたいな美形がそういう態度だと、雰囲気が氷点下まで下がるねー。
夏にはうってつけの冷房装置だよ。
「ふん。何を言い出すかと思えば、まったく。
我等はな、誰の承認も意見も求めておらんのだよ」
「それなら、この場に集う意味も無いわね。
あとは御自分の領地へ戻って、庭の石像でも相手に演説なさったら?」
「こっ、この!!ふざけた事を───小家の分際で、よくもッ!」
あれま。
むしろあっちは、頭に血が上っちゃったか?
顔真っ赤にしてさ。
やっすい役者だなぁ、ホント。
「ディハール殿。
ならば、何が目的の《特別会議》だ」
「時間の無駄に過ぎる。
言いたい事があるなら、はっきり言い給え」
ノルモンド家とマリス家が、相次いで発言。
『学芸会おじさん』の動揺を突き、少しでも情報を引き出す狙いか。
「いや、その───ただ一言、言う為だけだ!
他意は無い!
抜けるから、抜けると!そう言いに来ただけだ!」
うわ。
全然駄目じゃん、こいつ。
もっと気の利いた台詞を喋れよ。
台本に書いてなくても、咄嗟にアドリブをかませっての!
自分で考える頭が無い、バレバレの操り人形だ。
お前の底が知れただけじゃなく、《後ろの存在》の価値も大暴落だよ。
こんなのを主役に選ぶようじゃ、たかが知れてるってね。
「何か問題でもあるのか、ええッ!?」
パニクった哀れな道化の、やけっぱちな叫び。
「発案があるのだけれど、議長。
全員で承認の拍手をして、早く終わらせたらどうかしら」
火に油を注ぐような、ウチのお姫様の冷たい返し。
煽るねぇ、君。
ちなみに、当の本人に嫌味を言ってるつもりは全く無しだ。
多分、普通に突き放してるだけ。
それがジャストなタイミングすぎて、クリティカルヒットだよ。
やったね、ファリア!
それにしてもフェンビックの頭首って、マジで頭が悪いな。
お前の仰せつかった役目は、《扇動》だろ?
もう少しやんわり、のらりくらりと泳いでさ。
周囲の反応をしっかり見極めてから、一旦『お開き』にして帰りゃいいのに。
お陰様でもう、《ばっちりアウト》な流れだ。
すんごく《よろしくない》方向に、全速力で進んでるよね、これ。
「やかましいッ!!
だからそんなもの、求めておらんと言ってるだろうが!!
ええい、議長!!」
「何だね」
「《連合》の離脱に際して、各家の承認など必要だったか!?
投票を行うだの、そんな『約定』はあったか!?」
「ふむ───そういうものは無かった、と思うが」
「そうだろう!そうだろうとも!
誰が何と言おうが、何を考えようが、結局何の意味も無いのだ!
それがこの、形だけの《連合》の正体よ!
もはや、こんなお遊びには付き合いきれん!!
だからこそ此処で、フェンビックは宣言する!!
我等一族全員は!!
現刻をもって、《連合》から完全に離脱する!!」
”フェンビック”
ダグセランに向けて《心話》を送った瞬間。
テーブルの上に乗った『それ』が見えた。
隣で行儀良く座っていた筈の、お姫様。
その靴の───裏側の『残像』が。
こうなると思って、早目に指示したのに!!
その予想よりもフライングすんなってのッ!!




