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478話 好機 02


「それでは只今より、《連合特別会議》を始める」



議長席に座ったジャスレイ家の頭首が、開会宣言。


うおう、顔がヤバい。

素で不機嫌さを出しちゃってるじゃん。

ま、一期で2回の招集、開催は腹を立てて当然か。

その手間も金も、請求出来る先が無いわけだし。



「今回の急な開催は、フェンビック家からの要請によるものだが」



言葉と共に、じろり、と議長が濁った眼球を動かし。

それを追いかけるように各家代表達の視線が、テーブルの一席に集中する。



───おい、お前かよ!この『クソ集会』の原因って!



「ははは。申し訳無いね、各々方(おのおのがた)

なぁに、どうしてもこうやって席を設けねばならん事があってな」



嬉しそうにフェンビック家頭首、ディハールが言う。

無言の反感を突き刺されても、何処吹く風の御様子。

いや、それどころか得意満面だな。

学芸会の主役に選ばれた子供みたいだ。



「それで、まあ何だ。簡潔に述べるとだね」



ニヤニヤと笑い、わざとらしく間を置き。



「我等フェンビックは───《連合》から離脱しようと思う」



ああ??


誰一人とて声を上げず。

白けた沈黙のまま、ディハールの語尾が会議場に残響。



「───その理由は?」


「なぁに、簡単な事さ。《連合》に所属するメリットが無いからだよ」



議長の問いに返される、馬鹿陽気な物言い。

(おど)けた仕草。



ここで初めて、各家の席から『音』がした。


失笑。

溜息。

(あざ)笑い。



まあ、僕もこれには溜息をつくしかないね。


『仲良しこよし』でもない《連合》に、明確なメリットが無いのは明白だ。

昔っからそうだし、今になってさも得意そうに言う事じゃないだろ。


そもそも、15年に一度しか行われない会議だ。

議題なんかありゃしないし、皆で話し合うべき問題も皆無。

”お前のところの商売が邪魔だ”、”いや、お前こそ”という、愚痴(こぼ)し。

そうやって他家(よそ)に喧伝し、後で敵に横槍を入れてもらう為の発表会。


『どこにも利点が無い』のは、分かりきってるんだよ。


けれど逆に、大した不利益も発生しない。

議長役が回って来る事と、開催時期に重ならないよう『休眠期』をずらす事。

その2つ以外、特に困る点は無いんだからさ。



「たしか来期は、当家(うち)が議長の予定だったからねぇ。

何も言わず抜ければ、色々困るだろうと。

これまでの義理立ての意味も含めて、集まってもらったのだよ」



嫌らしい薄笑いで得意絶頂の、ディハール。


へーへー、そうですかー。

さぞかし楽しいだろうな、会議の《主役》になるのはさ。



───勿論、今の発言は『全部嘘』だ。


───信じてる奴なんて、この場に誰もいやしない。



当たり前だよ。

こいつがそんな殊勝な性格なわけないし、そうする義務だって無い。

抜けたいなら、黙って勝手にすればいいだけの話。


それをわざわざこんな席上で言う目的は、ただ一つ。


自分達の他に離脱する者を、(つの)っている。

抜けた後にどうするつもりか。

メリットが無い《連合》を抜けることに、どんなメリットが発生するのか。

そこを考えさせ、会議が終わった後で興味を持った家と接触。



これは、『引き抜き』の為の一大パフォーマンスなのだ。



───そして、《それを指示した存在》を匂わせる『工作』でもある。



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