46話 Theater for evil tongue 09
「───ふん。
土産を持たずに来て、そのまま帰るのも心苦しくはある。
いいだろう。
ゲイリーに、花を手向けてやるとするか───」
「ああ、感謝の極み!
我等を代表し、厚く御礼申し上げます!」
その『喜んでいるような』声も、小芝居だな。
ランプを置いたのは、アレか?
今度は脚を見てください、か?
「───退け、後は私がやる」
一拍の間を空けてから、宣言し。
うろたえる幹部達を尻目に、陣へと足を運ぶ僕。
・・・うっわぁ・・・。
デタラメだぞ、これ。
『魔力線』が、全く繋がっていない。
子供のイタズラ書きレベル。
バルストの話が、真実なら。
初代が呼び出した悪魔から教わった陣は、本物の筈。
“面倒だ、注意しろ”。
それを仲間に伝えるには最低限、術式全体が『繋がって』いないと意味が無い。
『向こう側』へ通らない。
陣を書き写す時に、ミスしたのか?
スマホで撮れば簡単だろ?
・・・あーー。
40年以上前に、スマホは無かったな・・・。
「ソルゴーの紋章が無い。ペルタクロスが逆さまだ。
月と冥王星の角度が、加味されていない」
適当な事をブッこきつつ。
立ち尽くしている一人から、巨大な絵筆の差し込まれた壷を奪い取る。
・・・うえ・・・!
中身は、血だ。
人間の。
これしか無さそうだから、仕方無い!
陣の修正は、これを使う!
物凄い臭気に顔を歪めないよう注意しながら、周囲へ指示を飛ばす。
「供物は必要無い。『それ』をどけろ」
「───え───ですが」
「そんな手段に頼っているから、魔道の真髄へ辿り着けんのだ」
頼むから、早く持ってってくれ!
その。
明らかに人間のっぽい、心臓やら、XXやら・・・色々を!
結局、修正というか、ほぼ書き直しに近くなり。
陣が完成したのは、午前2時。
───とにかく、苦労した。
この召喚陣は、正しく発動する本物でなければならない。
召喚出来なきゃ、ここまで深く潜り込んだ挙句、僕は連中に殺される。
しかし、分かり易い形で描けば、模倣される危険がある。
実際、幹部連中は必死の形相で、汚らしい手帳みたいなものに書き込んでいた。
スマホで撮れよ!
真性の阿呆か、お前らは!
そんな訳で。
そのままをなぞっても『魔力線』が繋がらないよう、誤魔化し。
フェイクにフェイクを重ねた上で。
更には、連中が見たこともないような、見栄えの良いのを・・・
なんてやってたら、こんな時間になった訳だ。
・・・ああ、連日の夜更かし!
・・・深夜手当て、付かないしなぁ・・・。
「───召喚陣は、これで良い」
げんなりした顔を見せないよう、振り向かずに言う僕。
「お前達は、悪魔に何を願う。何を望むか」
「御方様、我等は───」
「教主の指名をっ!!」
背中越し、さっきの女の声を遮って、幹部の声。
「そ、それとっ!『グラース・エリエナム』の今後の方針をっ!」
・・・おいおい。
そっちはオマケかよ。
教団名の意味を知った後じゃ、笑いそうになる・・・。
「───うむ。
ならば始めようか、『召喚の儀』を」
《一同、膝を付き、頭を垂れよ》
そう言い放ち。
僕は陣の正面に一人、堂々と立つ。
・・・さあ、ここからはもう、万に一つも失敗は許されない。
・・・頼むぞ、悪魔バルスト・・・!!




