474話 異種間コミュニケーション Extra 01
【異種間コミュニケーション Extra】
あたしはよく、”美しい”と言われる。
”気品がある”、”淑女だ”とも囁かれる。
───それらの評価は全部、黙って受け取っておこう。
───誰がどう思おうが、信じようが勝手にすればいいし。
まあ、あたしの見た目が良いのは事実よ?
元々が綺麗なのに加え、日々のブラッシングで解れ一つ無く。
あたし自身の丁寧な毛繕いもあって、極上の毛並みなの。
この真白き被毛が、世界で一番の輝きと柔らかさなのは間違い無い事。
けれどね。
それ以外の部分を称賛し持て囃すのは、馬鹿だなぁ、って思うのよ。
気品?
淑女?
あたしは『超絶短気』で、『暴力主義』な猫だ。
《1の我慢より、100の実力行使》が信条なの。
気に入らない相手は、即座に爪と牙で排除する。
手加減なんて、一切しないわ。
基本的に、ブラッシング以外の目的で体に触れようとするのは許さない。
あたしの趣味は、《触りたがる人間を酷い目に合わせること》よ。
大体にして世の中には、嫌なやつしかいないし。
その中でも、オスは特に嫌い。
同族だろうと、それ以外だろうと、オスは本当に大嫌い。
臭い。
うるさい。
好ましい部分なんか、1つだってないんだから。
───”でも、お前の飼い主は男じゃないか”、って?
ああ、『飼い主』ね。
そう思ってるのは、向こうだけ。
こっちは飼われてるつもりなんて、全然無い。
酔っ払いが乗った蛇行運転のバイクに当てられ、怪我をしたのが約8ヶ月前。
ひどく痛む脚のせいで、あたしは餌にありつく事も出来ず、衰弱していて。
そこを無理矢理に誘拐されただけの話。
そりゃあ、ゴハンと水は有難いと思ったわよ?
雨に濡れなくてもいいのもね。
でも、あたしは生まれついての『野良暮らし』なの。
人間に飼われるとか、真っ平御免なの。
怪我さえ治ればもう、用は無し。
すっかり『飼い主気取り』になった男にも、うんざりしていて。
あたしは、隙を見て《外》へ逃げ出すつもりだった。
《シルヴィア》って、何よ?
別に名前なんか貰わなくたっていいのよ。
どんな猫にも最初から、本当の名前はあるんだから。
まあ正直、黙って出て行くのに心が痛まないわけじゃあない。
”これだから犬と違って猫は、恩知らずなんだ!”、とか思われるのも癪。
何で犬なんかと比較されなきゃいけないのか、分かんないし。
だからね。
ちょっとだけは恩返しをしてから別れよう、と決めたのよ。
そういう気持ちで周囲を注意深く観察してみたらね。
───あたしの『自称:飼い主』は、ほぼほぼ《詰んで》いた。
どっちへ向かって歩いても、必ず何歩か先で《死ぬ運命》。
かといって立ち止まったら、自動的に落とし穴が開いて《転落死する予定》。
───ねぇ、何なのこれ?
───あんた、後一週間も経たずに死ぬわよ?
何でこんな状況なのに、平然としてるの?
キャットタワーとか購入してる場合じゃないでしょ?
もしかして、こうなってる事にも全然気付いてないわけ?
嘘でしょ?
あんた、馬鹿なの!?
馬鹿だから死ぬの!?
───短気なあたしは、怒りに任せて普段より強めに噛み付いた。
それが、今から半年前のこと。
シルヴィアと呼ばれるあたしの、壮絶な苦難の始まりだったの。




