表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
473/742

471話 異種間コミュニケーション 06



───最悪の衝突事故を想像し、硬直する俺。



だが、その女性の動きは、予想を遥かに超えていた。



「わあっ!?」



驚きの声を上げつつも、咄嗟に片足を引き、半身になり。

全力で突き倒さんばかりのボルゾイの両前脚を、素早くキャッチ。

大きく体を傾けつつ、ぐるり、と左回転。


回る。

回る。


まだ回る。


砲丸投げかよ、ってくらいに回転しながら突撃の勢いを殺し。

尚も興奮状態の相手の膂力を、落ち着くまで上手くあしらい、(なだ)める。


完全に、大型犬の『いなしかた』を心得ているやり方だ。



「アスランザ!!やっぱり、来てたの!?」



多分20代くらいの女性がボルゾイの細長い顔を、わしわしと(さす)って言う。

(さす)られたほうは全身で喜びと親愛を表現し、舞い上がらんばかりだ。



”御主人!!───怖かったか!?寂しかったか!?

もう大丈夫だ、アスランザが来たぞ!!”


「ああ、ええと・・・うん。

私は大丈夫なんだけどね?お前のほうが、ちょっと・・・ね?」



幸せそうに鼻を鳴らす巨体を抱き締め、苦笑が返されたが。


あれ?

今のって、何となく互いの言葉が通じてんのか?

あの()、犬族と会話出来るのか??


ああ、いや。

それはともかくとして。



「・・・ようよう、ちょっといいかい、お嬢ちゃん?

感動の再会を邪魔して悪いが、話があんだけどさ」



人目を避ける為、裏通りまで引き返すこと、約10分。

タバコ屋の横の公園に入り、ベンチに腰掛ける。


ただし、ここは普通の公園ではない。

《避難所》だ。

遊具も噴水も無いが、なんか難しい方法で本来の面積より広くしてんだとさ。


もしもの時に『人間以外』が身を隠せる、緊急避難先。

人間にゃ見えないし、相当に仲の良い奴でも此処の存在は教えられない。


今回は、俺の判断で《特別認証》ってのをして、彼女とアスランザを通した。


何せ俺は、裏街の《仕切り役》だからな。

そういう事がやれる権限をファリアちゃんからもらってる、《凄い狼》なのだ。



───ドッグフードの徳用袋に顔を突っ込み、ガシャガシャと喰らうボルゾイ。



顔馴染みがやってる食料雑貨店で買ったが、きっと誤解されただろうな。

『食うに困ってるからって、そりゃねーだろ』って目をしてたぞ、あの野郎。

いくら金欠でも、ドッグフードは食わねぇよ、阿呆。


本当にいざという時には、試すかもしれないけどさ。



「ごめんなさいね、カールベンさん。

この子のご飯や、お水までお世話になっちゃって」


「あー、そんなの構わねぇぜ。

見たところ、大学生か社会人一年目ってカンジだし。

人生の先輩面して(おご)るとか、やってみたかったのよ、いっぺん!」


「あはは!じゃあ、ありがとね《先輩》!」


”──────”



御主人様が逆さにしたミネラルウォーターのボトルを、がっぷりと(くわ)え。

喉を鳴らして飲みながらも、大型犬の目付きは鋭い。


『おのれ、貴様に借りを作るとは!』、とでも言いたげだ。


こっちだって、別に貸したつもりはねぇぞ。

あちこちポケット引っ繰り返して、有り金全部はたいたけどさ。

金なんてのはどのみち、いつの間にか煙みたく消えちまうモンだからな。

見付けた時には、あれこれ悩まず使ってしまったほうがいい。


山を越えて走って来たんだろ、お前?

腹が減ってイライラされんのも迷惑だからな。



「───元々は、地元のカレッジに通っていたの。

でも、去年の秋からキャンパスが、こっちに移転しちゃって」


「それで、一人暮らしか」


「うん。それでも、アスランザに会いたいし。

月に一回は、実家に戻っていたのよ?

まさか、脱走するなんて思わなかったわ」


”脱走ではないぞ、御主人!捜索だぞ!”


「そうだな、大脱走だな」


「昨夜遅くに、『アスランザがいなくなった』ってお父さんから電話があって。

私も探しに実家へ戻ろうかと思ったんだけど。

どうしてか、この街に来てるんじゃないかな、って予感がして」


”流石は、御主人だ。よく分かっているな!”


「そういう時の『もしかして』は、当たるんだよなぁ。良くも悪くも」



得意顔のボルゾイを無視し、わざと溜息をついてみせる俺。

本当にそうよね、と御主人様───ビエラちゃんも頷く。


おい、分かったか、ワンコ。

お前、ちっとは反省しろよな?



「こいつって、この街に連れて来たことがあったのか?」


「部屋探しの時に、一度だけね。

車で走った道を憶えていたのかな?」


「だろうな。それプラス、執念つーか。

迷子を探さなきゃっていう、使命感つーか」


「ああーー」



がっくりと肩を落とし、両手で頭を抱える御主人様。



「───やっぱり私、『迷子扱い』だったのね」


「もしくは、『脱走者』だな。

こいつからすりゃ、ビエラちゃんのほうがよっぽど」


”黙れ、狼め!

御主人を(いじ)めるのは許さんぞ!

幼い内は、うっかり遠くまで出て帰れなくなることもあるのだ!”



おまけに、『子供扱い』か。


フォローになってねぇよ。

もう20歳(はたち)を迎えてる()に、それは失礼ってもんだぞ?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まぁ人の20才なんて犬ならせいぜい一才半。まだまだ子供にしかみえないか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ