45話 Theater for evil tongue 08
───派手な音を立てて、扉を開ける。
───開けっ放しのまま、何者であろうと存在を無視して。
───ゆっくりと、だが、傍若無人に歩みを進める。
完全に、『悪役の登場シーン』だな。
思考が止まったか、それとも考える力自体が乏しいのか。
ようやく制止らしい制止を受けたのは。
大広間の中央付近にまで達してからだった。
「・・・誰だ?」
「速やかに、つまみ出せ」
「生きて帰すな」
召喚陣の側にいる、幹部らしきローブ姿の奴らから、指示が飛ぶ。
うおーい!
最後の一言は、怖すぎだろ!
「───触るな」
重く、低く。
そして、強者の声色で呟く。
「あっ!」
「うあっ!」
肩を掴もうとしていた信徒2人が、叫びを上げて飛び退いた。
蒼い炎が、僕の全身から立ち上がり、渦巻いたからだ。
ふん。
さぞかし、驚いただろう!
とある、ヒキガエルみたいな悪魔から貰った、幻術。
触れると『熱いような気がする』、まやかしだ。
派手なんで、こういう時には重宝するんだよな。
───ここで更に追い討ちといくか。
ばさり、とコートを脱ぎ捨てる。
その下には、漆黒のローブ・・・(かなり偉そう)。
金色に輝く、数々のルーン文字・・・(かなり馬鹿っぽい)。
いや、何の素材なのかも分からないけどな。
ハリウッドの美術チームが、総力を挙げて製作した感じの。
一歩間違ったら、というか。
すでに、日本の『ボーソーゾク』という輩が着る衣装に近い。
ちなみにこれは、フィンランドの某教団を潰した際に巻き上げたやつだ。
寒冷地仕様のせいで、冬場には有難い。
───で。
トドメだ。
被っていたローブのフードを、後ろに跳ね上げる。
「ああっ!?」
「ひいっ!?」
・・・誰だ?
今、悲鳴を上げた奴はッ!?
後で蹴りを入れてやるからなッ!
静まり返る、大広間。
空気が澱んでいる。
地下室を作ったのはいいが、まともに換気がされてないな。
こんなトコで蝋燭とランプを使ってたら、死人が出るぞ?
「ゲイリーが死んだ、と聞いてな。少し様子を見に来たのさ」
くくく。
“お前ら、この程度か?”というニュアンスを込めて、笑う。
「貴様!!我らが教主を呼び捨てに───」
「口の利き方に気を付けろ。私が何百年生きてきたと思っている」
ハッタリ1発で、噛み付いてきた奴、沈黙。
まあ、な。
お前、僕の顔を見ていながら、良くやったと思うぞ?
最終的には失神寸前みたいだが。
幹部連中に、先程までとは違うざわめきが広がる。
動揺と、期待。
そしておそらくは、これからの『身の振り方』を考えているんだろう。
・・・まったく。
愚昧なだけじゃなく、浅ましい奴らだな!
「───御方様、こちらへ───」
一人が、すい、と近付いてきて。
優美な仕草で召喚陣の方へと誘う。
・・・この声、女か。
まだ若い感じだ。
モーゼの十戒のシーンを思わせるように。
邪教徒どもが、ざぁっ、と左右に分かれる。
・・・ビビってるなぁ、相当に。
僕を連れて来た女へ、幹部の視線が集中する。
“勝手な事を”と言いたげな、あからさまな非難が込められている。
女はそれを気にしたふうでも無く。
小さなランプを手にしたまま、片膝を付いた。
「わざわざのお越しに持て成しの一つも出来ず、申し訳御座いません」
「──────」
「・・・ですが。
現在、我等『グラース・エリエナム』は、存続の危機に直面しております。
自らの信仰心の足りなさ、未熟さは重々に承知し、恥じ入った上で。
御方様に、お願いが・・・」
「───言ってみろ」
「どうか、この『召喚の儀』に、御力添えを。
蒙昧なる我等に、魔の道標を授けていただけないでしょうか」
・・・ほら、来た。
この女。
言ってることは、尤もらしいが。
その発言内容に本人自身は、さほど重点を置いてはいない。
こいつが考えたのは、考えているのは。
どうやったらこの姿勢をとっても不自然でなく。
左手に持つ明かりの角度をどうすれば、自分の胸元が美しく照らし出されるか、だ。
僕に近付いて来た位置からして、女は『幹部』ではない。
だが、いずれはそうなるだろう。
教主になれないまでも、事実上は権限を掌握するに至るだろう。
カルトにありがちなヤツだ。
反吐が出る。
そこに、乗っかっておくけどな!




