467話 異種間コミュニケーション 02
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「Hey、Hey!!ボディがガラ空きだぜェ〜〜!!」
殴りかかってきたのを華麗に避け、パンチを叩き込む。
んん?
首から上って、ボディだっけ?
違った??
まっ、いいか!!
「そぉれ!!必殺ストレートッ!!」
奇襲の前蹴りがモロに入り、くの字に折れながら吹き飛ぶ、もう一人。
え?
そんなに効いてんの?
オイオイ、大した演技派だねぇ!
かなり手加減してんだぞ?
人間相手に本気出したら、死んじまうからさー。
「くたばれ、このイ◯ポ野郎!!」
俺の隣でエイミーが叫び、横殴りに肘を一閃。
よろめいた男の襟元を掴み、野菜でも引っこ抜くみたいに投げ飛ばした。
つーか、床へブチ落とした。
「ふざけんなッ!!
死ね!100回死ね!クソがッ!!」
倒れたまま呻いてる奴の頭を、執拗に踏み付けるヒールの踵。
「あ〜〜。やめとけ、やめとけ。
もう十分だからさ。なぁ?」
その体勢で後頭部はマズい、やりすぎだよ。
ちょっと引くぜ。
見回して、もう『元気な奴』がいないのを確認。
エイミーの肩を叩いて宥め。
それから代わりに俺が、やや強めに転がっている男の尻を蹴る。
蹴って、蹴って。
サッカーのドリブルみたく、運んでゆく。
だって俺の左手は、まだ中身の入ってるグラスを持ってっから。
丁重にお抱えしてやるなんて無理なのさ!
気を効かせた常連の一人が入り口のドアを、さっと開けてくれて。
そこから外へ向けて、ドカンと蹴っ飛ばした。
残りの4人も、同じように御退出願った。
「また来週〜〜!つーか、もう来んなよ〜〜!」
わはは!!、と店内は大歓声。
突発的なイベントだったが、常連共には格好の肴となったみたいだ。
「エイミー、大丈夫か?」
「2発殴られたけど、平気さ」
まだ納得のいかない顔をしたままエイミーが応え。
それから、うっ、と呻いてしゃがみ込んだ。
「おい!?」
「いや、違うよ───胸が『ズレた』だけ」
「・・・あーー」
なんだ、そっちかよ。
一瞬、焦ったじゃん。
騒動で動いたテーブルを元の場所まで戻し、椅子に腰掛ける。
ギシギシと軋むのは、最初からだ。
今ので壊れたわけじゃあない。
「ヒュー!!強ぇなぁ、カールベン!スカッとしたぜ!」
「いやー、オメェがナンバーワンだ!この街最強だ!」
ジョッキを掲げ、打ち合わせる音。
笑い声。
そりゃそうだぜ!
人間に負ける獣狼族なんざ、そうそういねぇよ!
だがまあ、エイミーも中々だ。
ジュードー?
サンボか?
組んでは投げ、組んでは投げで。
見た目は細っこいのに、人間にしちゃあ結構やるもんだよ。
「おい、オメーら!せっかく盛り上げたんだからな?
全員、一杯ずつ奢れよ?」
そう言った途端、歓声の半分がブーイングに変わりやがった。
くそ!
まだ酔いが回ってないのがいるな!
深く考えるなっての!
勢いで奢れ、勢いで!
「───あたしのケンカに上手いこと乗っかったよね、カールベン」
ゴソゴソとやっていたエイミーが、やっと座り。
微妙な表情で俺を見つめる。
「そう言うなって!助け合うのが仲間ってモンよ!」
「まあ、それは有り難いけどさ」
給仕兼任の主人が持って来たジョッキを、軽くぶつけ合って乾杯。
最高!
適度な運動した後のビールは、最高だぜぇ!
「やっぱり、『こんな』だから面倒な事になるんだよねぇ」
ごとん、とジョッキを置いて。
作らないままの声で、エイミーが愚痴る。
「ただ生きてく、ってだけでも辛いもんだよ」
「気にすんな、そんなモン。
さっきのはアイツらが悪いだけだ、お前のせいじゃないって」
見掛けない顔だったし、たぶん隣街かどっかから来た連中だろうな。
別にここは客を選ぶような店じゃないし、誰が来て飲もうと構わないんだが。
奴等はエイミーを笑い、絡んできた。
それも、かなり執拗にだ。
エイミーがキレるのは当然だし、俺が加勢するのも当然。
こっちが謝るような事は、何一つ無いぜ?
楽しく飲めない奴等にゃ、出て行ってもらうのが一番だよ。
「あたしだって、手術とかそういうのやりたいけどさ。
とても出せるような金額じゃないし。
あーーあ。誰でもいいから、ポンと貸してよ。無利子で」
「そりゃ無理な相談だぜ。
ここにいるので金持ちなんか、一人もいねーよ。
持ってりゃ、こんな店で飲んでねぇっつーの」
「おい!!『こんな店』とは何だ、『こんな店』とは!!」
カウンターの奥から出て来た主人が、仁王立ちで怒鳴る。
「ツケで飲んでるオメーが、デカい口きいてんじゃねーぞコラぁ!!」
「払ってんじゃん、時々は!気が向いた時に!」
「全然足らねぇよ!!溜まってく一方だろうが!!」
「けどよぉ。金が無いからって俺が飲みに来なかったら、寂しいだろ?
それはそれで、落ち着かないんじゃねーの?」
「ふざけんな、清々すらぁ!!───とでも言うと思ったか?」
「うっ」
「オメーの場合は、払うもん払ってからだよ!
バックレんじゃねぇぞ、カールベン!!」
「はははは!」
「笑ってんじゃねぇ、馬鹿!!」
いやあ、いいねー。
こういうのがいいんだ、俺は。
そりゃあ、酒なんてのは、買って家で飲むほうが安上がりだけども。
それじゃ全然、面白くないんだよな。
騒ぐのやら、泣くのやら、口喧しいのやらがいて。
とても黙ってはいられない感じで。
色んな奴の声や感情が混ざりに混ざり、手が付けられないくらいがいい。
そういうのが、ほっとするんだよ。
嬉しいんだよ。
───《群れ》の中に、いるみたいでさ。




