465話 流出 03
「よし、決まった。買うのは、これと・・・これと・・・」
悩んだ末にようやく選んだ死体を、指差せば。
示したそれが、即座に目の前から消えてゆく。
毎回、一番外の出口付近までは向こうが運び出してくれる手筈だ。
それほど大したサービスじゃあないけどな。
こっちだって、相当なモノを払ってるんだし。
「あと、最後はこれだ。全部で5つあるよな?」
”ああ、間違いない───袋のほうは、どうする?”
「『袋』??」
死体にラッピングでもしてくれるって?
いや、違うか。
そういえば、何だかおかしな袋が置いてあったな。
見えてはいたんだけどさ、大して気にせず流してたよ。
”それの中身も一応、死体だぞ”
「へぇ。開けていいか?」
”勿論”
《保管庫》の隅、壁に立て掛けられた10近い麻袋。
歩み寄って、一番手前のやつの口紐を解く。
「・・・うッ!!」
”どうだ、凄かろう?”
「・・・・・・」
おい。
『凄い』とかの次元じゃないだろ。
騙し討ちか!?
袋の中で、赤茶けたドロドロの液体が沸騰している。
この低温下で凍り付きもせず。
湯気と共に猛烈な臭気が立ち昇り、覗き込んでいた顔を慌てて引き離した。
「ぐえぇっ・・・ひっどいな、こりゃ!
どういう死に方したら、こんな事になるんだよ・・・」
”さあなぁ───私にも分からぬ”
ああ??
分からない??
お前が殺したんじゃないのか?
「・・・もしかして、『こいつ』は最近のか?」
”そうとも。知り合いに持ち込まれてな。
どうしても引き取ってほしい、と”
「そりゃあ災難だ」
”しかし、こんな臭いビーフシチューを、どうしろというのか”
「やめろよ、食べ物に例えるな」
”───それで、『これら』は欲しいか?”
「要らない」
”いやはや、参った。こんな臭いトマト煮込みを、どうしろと”
「だから、やめろって言ってるだろ!」
鼻から息を吸わないよう、顔をそむけて口紐を縛り直し。
いや───待てよ。
慌ててまた解いて、今度は本気で中身を《視る》。
”何だ、やっぱり欲しくなったか?”
「・・・おい『墓守』。
これ、天使の死体じゃないだろ」
”そうか?”
「組成が違うぞ」
”しかし、『大体は天使』という事で良かろう?”
「『大体』で済ますには、違いが大きすぎるんだけどな」
”それでも、『これら』は自分が天使だと思って生きた。
周囲もそう扱い、そうやって死んでいった”
「・・・・・・」
”つまりは、『天使』で間違いないのだ。
人間とお前よりは───いや、止しておこうか”
「・・・・・・」
明らかにケンカを吹っ掛けてきてるが、あえて無視だ。
今はちょっと、それどころじゃない。
他の麻袋も全て開いて、素早く確認する。
どれも同じだ。
煮え滾る液状で、吐き気を催す臓物臭。
僕の知っている『天使』とは、全組成の1/3くらいが異なり。
そして、一名分が一袋ではなく、ゴチャ混ぜにして流し込まれている。
”───どうする、欲しいか?”
「欲しいね」
”興味が無くば、無料であったが。
欲しがるのなら、とても高いぞ”
「全部買う」
”ツケも分割も効かぬが?”
「『袋の分』は、これからすぐに届けさせる」
”はは、弟子使いが荒いのう!”
「・・・・・・」
馬鹿言うなよ。
ルーベルに”金目の物を持って来い”なんて、頼めるもんか。
これでも僕は、『先生』なんだからな。
こういうカッコ悪い事は、別のアテに頼る。
『練習作』だ。
『あいつ』が支配下に置いた吸血鬼共から、貢がせりゃいいんだ。
金持ちのバケモノなんだろ、吸血鬼っていうやつは。
幾らでも持ってそうじゃないか。
ええ?
『墓守』が喜びそうな、ピカピカしたやつとかさぁ!




