464話 流出 02
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左回りで順番に、天使の死体を確認してゆく。
大きさや性別なんかは、どうでもいい。
とにかく、《第一層》と《第二層》に損傷が無いやつを選びたい。
───相変わらず、どれも鮮度は完璧だ。
───そして、鮮度だけでなく死亡推定時刻まで、完全に同一だ。
こいつ、3回声掛けたら1回は”在庫が無い”、とか言うけどさ。
明らかに嘘だよ。
どんだけ裏で溜め込んでんだ。
どれもこれも一様に、苦悶の表情を浮かべて氷漬け。
死因は全て、凍死。
まとまった数を一気に殺した結果だろ、これ。
そんなのは、何度も追加できるものじゃあない。
『戦争規模の争い』で始末したやつを、ゴッソリ抱えてるんだろうよ。
何が『墓守』だ。
お前の正体なんて、簡単に想像がつくってものさ。
”───欲しいものは、ありそうか?”
「まあね」
頭の中に幾つか目ぼしいものを保留しつつ、更に検分を続ける。
”私は墓を持たない死体など、興味が無いが。
そんなに天使が憎いか?”
「当たり前の事を聞くなよ」
”天使よりも、『人間』を憎んだらどうだ?”
「・・・あ??」
”他の『人間』が皆、お前と同じだったなら。
寂しさも悲しさも無かったろうに”
「どういう弄れ方をしたら、そういう考えになるんだ?」
せっかく集中して素材を吟味していたのに。
流石にこれは、足も思考も止まってしまった。
「『もしも話』にしたって、馬鹿過ぎる。
全員が僕と同じだったら、全員殺されるだけだろ。
寂しさも悲しさも、そして憎しみも消えやしないよ」
”だが、それならばお前は、《死》を選べるぞ”
「・・・・・・」
”皆と同じであれば、皆と同様の結末も受け入れることが出来よう”
「・・・勝手に分かったフリして決め付けるな。
4、5回ブッ殺すぞ、『墓フェチ女』」
”おっと、すまぬな───『ニンゲン様』の繊細な心を傷付けてしまったか”
「・・・・・・」
”いや、これでも私は、お前の事を心配しておるのだぞ”
「今度は母親気取りか?
だったら死体を無料にして、小遣いでも渡してくれ」
”お前には、ちゃんと死んで、小さくともきちんとした墓に入ってほしいのだ”
「結局、それか」
こいつには、本能しかない。
理性なんて、欠片もありゃしない。
欲望と損得勘定に突き動かされ、延々と生きる骨董品のようなバケモノだ。
こんなだから、悪魔ってヤツは信用出来ないのさ。
お前の思い通りになってたまるか、ってんだ。




