461話 投げるべし 05
「《通り名》が、全てを物語っているねぇ。
《岩投げのウルダス》。
竜退治を成し遂げたなら、普通は《竜殺しのウルダス》だろう?
そうならなかったのは、それだけでは消せないほど悪名が広まっていたからさ」
「・・・仰るとおり、でしょうね・・・」
「《本物の騎士》と、《騎士道の騎士》。
まあ、君がどちらになるにしてもだ。
それを、自分の意思で選ぶなんてことは、出来ないね」
「え??どうして選べないんですか?」
「だって、そりゃそうだろう。
世間じゃ、”誰が何と言おうと、自らが信じていればいい”。
そんなのを得意そうに繰り返すけれどね。
《騎士》を決めるのは、他者だよ。
任命も生き様に対する評価も、君に決定権はありゃしない」
「・・・・・・」
「どちらかには、なるだろうさ。自動的にね。
それでも、納得がいかなくて。
叙勲されただけでは、自分が《騎士》なのか分からないならば」
「・・・ならば?」
「もう一杯、エールを頂けるかな?」
「あ、はい」
何杯目だっけ、これ。
サーバーからビールを注ぎながら、息をつく。
全然酔ってる感じじゃないな、この男。
やっぱり、『ならず者』は大酒飲みってか?
「───お代わりのついでに、質問があるのだがね」
「何です?」
「君は、憎んでいる人間がいるかね?」
「や・・・特には・・・」
仕上げに泡を、ジョッキのすれすれまで入れ。
テーブルに置いたそれは、すぐさま持ち手を掴まれ口元へ運ばれた。
「───んん〜〜!そんなこたぁ、ないだろぉ?
そこそこ生きていれば、そこそこ恨みは溜まる。
当然だよ、何も恥ずかしい事じゃあないさ」
「そう言われましても、ね・・・」
別に、そんな相手はいやしない。
思い浮かばない。
会社の同僚や上司だって、ごく普通だぞ?
トラブルが無かったわけじゃないが、憎いだとか、恨んでるとかまでは。
TVの司会者で、気に入らない奴はいるけどな。
それだって、単に好きじゃないってだけだろうし。
「本当に、一人もいないのかね?」
「いませんよ・・・・・・あ」
「おお?」
「いや・・・何というか、その。
ちょっと腹の立つ奴なら、まあ」
「それは、どんな?」
「・・・軍の、特殊部隊員ですかね。
あいつら、竜と戦う前、バカにしてやがったから。
オレが軟弱そうだから、とかじゃなくて。
《騎士》をバカにしてた。
あの時はオレ、一杯一杯だったんで流したけど。
後々思い出したら、腹が立つなぁ、って」
「ほほう!いいねぇ!!」
バン、と叩かれ、揺れるテーブル。
水滴溜まりの上を滑るジョッキ。
「何が、いいんですか」
「最高じゃないか!それでいこう!」
「は?」
「───よし!
ロバート君、『それ』を投げたまえ!」
「・・・はい??」
「これからも毎日、『岩を投げるべく』修業に励んでだね。
まあ、投げられやしないが、投げようと汗水垂らしてだ。
あと1年、いや、2年経ったら、さあ御前試合だ」
「『御前試合』??」
「そうさ。
王女様にでも頼んで、王室の方々を呼んでいただき。
彼等の目の前で。
その特殊部隊員とやらを全員、片っ端からぶん投げるのだよ」
「ちょっ、それは!!」
「その上で、訊ねてみればいいじゃないかね。
”こんな自分は、《騎士》に相応しいでしょうか?”、と。
君の騎士位が取り消されるか、そうでないか。
その結果で、全てがハッキリすることだろう」
「・・・取り消されたら、ええと、《騎士道の騎士》失格で・・・」
「されなければ君は、《ならず者》で《本物の騎士》というわけだな。
その場合は、『俸禄を増やすか封土を与えよ』と脅したまえよ」
「???」
「給料の増額、または領地をくれ、という事さ」
「それを王様に言うんですか!?」
「なんなら、『王女を寄越せ』でも」
「ひえぇっ!!」
どこの竜だよ、それ!!
今度はオレが誘拐するのかよ!!




