460話 投げるべし 04
「『ならず者』は、とてつもなく性根が弄れていて、性質が悪い。
ちょっとした顔役を気取って手下を従えてる連中なんか、目じゃないね。
そういうのは足元にも及ばない、取り付く島もない。
通りを歩いて来たら、静かに端へ寄って息を潜めるだけ。
それくらい、恐ろしいものなのさ」
「・・・・・・」
「滅法強い。誰も止められない。
やりたい放題の悪行三昧、関わったら食い潰され、踏み潰される。
どうしようもないから、善良な皆様はそこの領主に”助けてくれ”と訴える。
しかし、普通に陳情したのでは証拠が残るし、報復が恐い。
だから、《たまたま訪れていた旅人が嘆願書を出した》。
《その旅人はもう、出て行った後》。
大抵は、そういう形に持ってゆくわけだよ」
「・・・・・・」
「───けれどねぇ。
訴えを受けた領主からしても、これは難しい問題だ。
『ならず者』は強すぎて、ちょっとやそっとの兵隊じゃ敵わない。
50、100と向かわせて、何とか捕縛するか、殺すか出来たとしても。
その代償に、何人怪我をするか、死ぬか。
そいつらの見舞金、慰謝料だって少額では済まない。
文字通り、丸損というやつさ。
まともにやってられない。
けれども、領民の訴えを無視もできない」
「もしかして・・・だから、『金で雇う』?」
「その通り!
かくして『ならず者』は、晴れて《騎士》になりにけり!」
「でも、それだと余計にひどい事になるんじゃ」
「うむうむ、なるともさ!
領主のお墨付きを盾にして、これまで以上に大暴れだ。
そうなっちゃ困るから、領主は《騎士》をさっさと戦場に送り込む。
そこでなら、幾ら殺してもいいし、殺されたっていい。
しかし、戦争が無い時は?
君が領主なら、どうするかね?」
「どう、って・・・自分の領地には居てほしくないし。
何とかして、他所へ行かせたいけど・・・」
「行かせればいいのだよ。
幾許かの路銀でも持たせて、”いってらっしゃい”と」
「??」
「騎士物語に、よくあるじゃないか。
諸国を遊歴する騎士、というのが。
あれは見事に嘘っぱちさ!
剣の修業?
騎士道の追求?
聖杯探索ぅ?
馬鹿馬鹿しい、そんなわけないだろう!
あれはだね、君。
”雇い主の名を伏せて、嫌がらせをしてこい”。
”次の戦いまでに、強そうな奴を倒してこい”、なのだよ。
私も昔は、そういうのをやったさ。
あれはあれで、中々に愉快だったな!」
「・・・それ、いつの話なんです?」
「だから、昔の昔。大昔だよ、君ぃ!」
いやいや。
暗殺者とかスパイじゃないんだからさ。
30年くらい前だったとしても、『そういうの』はまかり通らないよ。
どう転んでも、国際問題だよ。
「とにもかくにも、《騎士》というのは厄介者。
雇う側からすれば、キリの良い所で上手く始末を付けたいわけなんだが。
しかし、《騎士本人》よりも、《騎士》という名前には結構な価値がある」
「価値??」
「なんたって、出鱈目に強いからねぇ。
《騎士》は、強さの象徴だ。
とても分かりやすい、皆が知ってる言葉だ。
想像してみたまえ、ロバート君。
”兵士が50人向かって来ます”と、”騎士団がやって来ます”。
どちらが、より恐ろしいかね?」
「そりゃあ、騎士団のほうが・・・って、『騎士団』?
この場合、複数いるんですか??」
「ははは!
そうだろう?そうなるだろう?
勿論、そっちの騎士は《偽者のほうの騎士》だよ。
《本物》は数が多くないし、まとまるなんて出来ない輩さ。
《偽者の騎士達》で《騎士団》を結成し。
紋章付きの旗を掲げ、戦地へ向けて先触れを出す。
”今から、◯◯騎士団が行くぞ”、と。
これはだね、敵軍にはとても効くやり方なんだけれども。
自軍に対しては、少なからず悪影響がある。
数々の悪名が轟いているからねぇ、《本物》は」
「あっ、それで《騎士道》か!!」
「そうさ。
”この騎士様達は、悪さをしません”。
”品行方正、清廉潔白、正義の味方です”、と。
みんなを安心させる為の『おまじない』なのさ、《騎士道》は。
そして。
君の家系における、《岩投げのウルダス》という男は。
間違っても《騎士団の騎士》ではないねぇ」
「・・・・・・」
だから。
何でそんな嬉しそうに言うんだ、クライバルさんよ!




